13:45 〜 15:15
[ACG30-P21] 海鳥バイオロギングで推定した海上風のアンサンブルデータ同化
キーワード:バイオロギング、データ同化
海上気象観測は大気海洋相互作用の理解に不可欠であるが、海上での直接観測は小型船舶やブイを用いたごく限られた観測にとどまっている。気象衛星による海上風観測データも広く利用されているが、その時空間分解能は十分とは言えず、観測の空白域は多く存在する。そこで近年、動物行動学の手法として開発されてきたバイオロギングが、そのような観測の間隙を埋める新たな気象観測の手法として注目されている。バイオロギングは、動物に小型のデータロガーを装着してその行動や周囲の環境を計測させる手法である。最近はロガーの小型軽量化・多機能化が進み、様々なデータが取得できるようになってきている。
鳥は環境場の風の影響を受けて飛んでおり、その飛行経路は風の情報を含んでいる。そこで、観測データ(飛行経路データ)を使ってその要因(風と鳥の向いている方向)を同時に推定する逆問題型アプローチにより、風を推定する手法が考案された[1]。本研究では、新潟県粟島で夏に営巣するオオミズナギドリの調査で得られたGPS位置情報データからこの手法により推定される海上風を領域大気データ同化に利用し、鳥推定風を同化した場合(BIRD実験)としなかった場合(CTRL実験)で解析の精度を比較する観測システム実験(Observing System Experiment, OSE)を行った。
本研究では、気象庁非静力学モデル(NHM)に局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)を組み合わせた領域再解析システムNHM-LETKF[2]を用いる。モデルの解像度は水平25km及び5kmで25kmから5kmに1方向ネスティングを行っている。アンサンブルメンバー数は30とした。同化計算は2018年8月1日から9月5日まで、鳥推定風の同化は8月22日から9月5日までとした。解析時刻は6時間間隔である。同化に用いた鳥推定風データは、4個体分を合わせて計727点である。鳥推定風のほか、観測値としてNCEP PREPBUFRの従来型観測を同化に使用した。鳥推定風は一律に高度2mのデータとして扱った。鳥推定風の観測誤差については、風推定モデルから出力される推定誤差をそのまま観測誤差として与えた。
まず、水平解像度5kmの気象庁MSM解析値を用いて鳥推定風の精度を確かめたところ、相関係数R≈0.5程度の相関があり、良い精度で風を推定できていることがわかった。次に、5km解像度での計算結果について、地表面風速U(東西風)、V(南北風)の期間平均スプレッドをBIRD実験とCTRL実験で比較した。観測点は日本海沿岸から北海道南岸に沿って分布しており、この観測のインパクトが日本海北部および北海道南方沖から日本の東海上に伝播したことが示唆される。また、計算期間内で3つの台風(台風18、19、20号)が日本付近を通過していたが、これらの中心気圧や強度にも違いが見られており、発表では鳥推定風がこれらの台風に及ぼした観測インパクトについても報告する。
謝辞
本研究は科研費基盤研究(A)22H00569の支援を受けた。NHM-LETKFを用いたOSE 実験には、海洋研究開発機構の地球シミュレータを使用した。
参考文献
[1] Goto, Y., Yoda, K., & Sato, K. (2017). Asymmetry hidden in birds’ tracks reveals wind, heading, and orientation ability over the ocean. Science advances, 3(9), e1700097.
[2] Fukui, S., Iwasaki, T., Saito, K., Seko, H., & Kunii, M. (2018). A feasibility study on the high-resolution regional reanalysis over Japan assimilating only conventional observations as an alternative to the dynamical downscaling. Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II., 96(6), 565-585.
2018年8月22日から9月5日における、期間平均地表面風速U、Vスプレッドの差分(BIRD-CTRL)。単位はm/s。負の領域は鳥推定風の同化によってスプレッドが低下したことを示す。緑のプロットは期間内すべての鳥観測点を表す。
鳥は環境場の風の影響を受けて飛んでおり、その飛行経路は風の情報を含んでいる。そこで、観測データ(飛行経路データ)を使ってその要因(風と鳥の向いている方向)を同時に推定する逆問題型アプローチにより、風を推定する手法が考案された[1]。本研究では、新潟県粟島で夏に営巣するオオミズナギドリの調査で得られたGPS位置情報データからこの手法により推定される海上風を領域大気データ同化に利用し、鳥推定風を同化した場合(BIRD実験)としなかった場合(CTRL実験)で解析の精度を比較する観測システム実験(Observing System Experiment, OSE)を行った。
本研究では、気象庁非静力学モデル(NHM)に局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)を組み合わせた領域再解析システムNHM-LETKF[2]を用いる。モデルの解像度は水平25km及び5kmで25kmから5kmに1方向ネスティングを行っている。アンサンブルメンバー数は30とした。同化計算は2018年8月1日から9月5日まで、鳥推定風の同化は8月22日から9月5日までとした。解析時刻は6時間間隔である。同化に用いた鳥推定風データは、4個体分を合わせて計727点である。鳥推定風のほか、観測値としてNCEP PREPBUFRの従来型観測を同化に使用した。鳥推定風は一律に高度2mのデータとして扱った。鳥推定風の観測誤差については、風推定モデルから出力される推定誤差をそのまま観測誤差として与えた。
まず、水平解像度5kmの気象庁MSM解析値を用いて鳥推定風の精度を確かめたところ、相関係数R≈0.5程度の相関があり、良い精度で風を推定できていることがわかった。次に、5km解像度での計算結果について、地表面風速U(東西風)、V(南北風)の期間平均スプレッドをBIRD実験とCTRL実験で比較した。観測点は日本海沿岸から北海道南岸に沿って分布しており、この観測のインパクトが日本海北部および北海道南方沖から日本の東海上に伝播したことが示唆される。また、計算期間内で3つの台風(台風18、19、20号)が日本付近を通過していたが、これらの中心気圧や強度にも違いが見られており、発表では鳥推定風がこれらの台風に及ぼした観測インパクトについても報告する。
謝辞
本研究は科研費基盤研究(A)22H00569の支援を受けた。NHM-LETKFを用いたOSE 実験には、海洋研究開発機構の地球シミュレータを使用した。
参考文献
[1] Goto, Y., Yoda, K., & Sato, K. (2017). Asymmetry hidden in birds’ tracks reveals wind, heading, and orientation ability over the ocean. Science advances, 3(9), e1700097.
[2] Fukui, S., Iwasaki, T., Saito, K., Seko, H., & Kunii, M. (2018). A feasibility study on the high-resolution regional reanalysis over Japan assimilating only conventional observations as an alternative to the dynamical downscaling. Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II., 96(6), 565-585.
2018年8月22日から9月5日における、期間平均地表面風速U、Vスプレッドの差分(BIRD-CTRL)。単位はm/s。負の領域は鳥推定風の同化によってスプレッドが低下したことを示す。緑のプロットは期間内すべての鳥観測点を表す。