日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG33] 熱帯におけるマルチスケール大気海洋相互作用

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:堀井 孝憲(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、釜江 陽一(筑波大学生命環境系)、清木 亜矢子(海洋研究開発機構)、時長 宏樹(九州大学応用力学研究所)、座長:堀井 孝憲(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、時長 宏樹(九州大学応用力学研究所)

14:30 〜 14:45

[ACG33-03] The extratropical pacemaker effect on Pacific Walker circulation trend

*戸田 賢希1宮本 歩小坂 優1渡部 雅浩2 (1.東京大学先端科学技術研究センター、2.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:将来予測、ウォーカー循環、海盆間相互作用

太平洋ウォーカー循環はエルニーニョ・南方振動や太平洋十年規模変動と関連し、地球全域の気候に影響を与える。衛星観測開始以降の観測トレンドではウォーカー循環は強化トレンドを見せているものの、全球気候モデル(GCM)の現実再現実験はそれを再現しないことが知られている。観測されたウォーカー循環の強化トレンドは、気候モデルの不確実性の幅から大きく外れており、観測とモデルの乖離は内部変動では説明できず、モデルバイアスであると考えられている。
観測されたウォーカー循環の強化トレンドは熱帯西太平洋のSST昇温が東太平洋よりも相対的に大きい、いわゆるラニーニャ型のSST変化と関連する。一方、多くのモデルは現実再現実験において東太平洋の方がSST昇温が大きい、いわゆるエルニーニョ型のSST昇温を見せる傾向にある。ウォーカー循環とそれに関連する熱帯太平洋内のSST変化のモデルと観測間の乖離は、全球規模の気候の将来予測に対して影響を与える可能性もあり、その物理的な理解の向上が喫緊の課題となっている。
一連のモデルと観測の不一致については、近年研究が盛んにおこなわれており、モデルが南大洋のSST変化をよく再現しないことや、南大洋から南太平洋を通じた赤道太平洋向きのSST伝播に関してモデルにバイアスがあることが、定性的にウォーカー循環変化に影響を与えている可能性が示唆されている。また、他海盆からの影響や海洋循環の変化など、熱帯太平洋のSST東西勾配およびウォーカー循環トレンドに影響を与えうるプロセスはいくつか提唱されてはいるが、いずれも定性的な議論のみで、定量的に観測されたウォーカー循環強化トレンドを再現するのに必要なプロセスについてはわかっていない。
そこで、本研究は熱帯太平洋外のSST変化を観測値に拘束するペースメーカー実験を複数種類行い、熱帯外SSTからのウォーカー循環と熱帯太平洋への遠隔影響について定量的に調べた。
太平洋の南北15°から極側と、インド・大西洋の南北30°から極側のSSTを拘束する(10-15°と25-30°はSST拘束が線形に減少するバッファゾーン)ペースメーカー実験を行い、観測されたウォーカー循環強化トレンドを再現することに成功した。また、観測されたラニーニャ型のSST変化や年々変動も非常によく再現された。この結果は、中高緯度のSST変化を正しく与えることができれば、熱帯のSSTを拘束しなくてもウォーカー循環トレンドや熱帯太平洋の気候変化を再現できることを示唆し、中高緯度SSTの熱帯気候将来欲に対する重要性を示す。
また、SSTを拘束する海域を変えたペースメーカー実験を複数種類行うことで、各海盆のSST観測値のウォーカー循環と連に与える影響を定量的に評価した。その結果、これまで議論されてこなかった北太平洋のSSTがウォーカー循環強化トレンドに有意に寄与していたことや、南太平洋の南緯20°周辺における赤道向きのSST伝播にモデルバイアスがあることなどが示唆された。