日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG34] 地球規模環境変化の予測と検出

2023年5月24日(水) 09:00 〜 10:30 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:河宮 未知生(海洋研究開発機構)、立入 郁(海洋研究開発機構)、建部 洋晶(海洋研究開発機構)、V Ramaswamy(NOAA GFDL)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

09:00 〜 10:30

[ACG34-P02] 製錬過程からのエアロゾル鉄がエアロゾル水溶性鉄沈着に与える影響

*伊藤 彰記1宮川 拓真1 (1.海洋研究開発機構)

キーワード:水溶性鉄、金属生産、人為起源鉄、鉱物ダスト、大気汚染

人為起源、森林火災起源、及び鉱物起源のエアロゾルは、植物プランクトンの成長にとって重要な栄養塩(鉄)を供給する。それにより、植物プランクトンを起点とした食物連鎖を通して海洋生態系および気候へ影響を与える。しかし、鉄(Fe)を運ぶエアロゾルの発生源固有の評価が十分になされていない。そのため、それらの発生源の寄与率推定には多大な不確実性が存在する。特に南大洋域で、エアロゾル中溶存鉄の質量濃度の観測データを過小評価することから、数値モデルで考慮されていない発生源の存在及び鉄溶出速度の過小評価などの問題点が指摘されている (Ito et al., Sci. Adv., 2019)。本発表では、エアロゾル化学輸送(IMPACT)モデルを用いて生物利用可能な鉄の二次的供給源としての製錬過程からのエアロゾル鉄に関する数値モデル感度実験結果を報告する。
大気化学輸送モデルとしては、IMPACTモデルを用いた (Ito and Miyakawa, Environ. Sci. Technol., 2023)。発生源データは、Community Emission Data System (CEDS)を基に作成した。製錬過程からのエアロゾル鉄に関する感度実験は、Rathodら(J. Geophys. Res. Atmos., 2020) の発生源データに基づいて、設定した。数値モデルの評価として、長崎県福江島において、 2018 年春季に捕集した微小エアロゾル粒子中の鉄の連続観測データを解析に使用した (Miyakawa et al., JpGU-AGU joint meeting 2020)。 また、過去の研究によりまとめられた船舶観測による鉄溶解率の観測データを用いた (Ito et al., Sci. Adv., 2019; Npj Clim. Atmos. Sci., 2021)。
IMPACTモデルは、福江島におけるFe質量濃度の観測結果と概ね良い一致が得られた。モデル感度実験結果から、鉄溶解率の再現性は鉄のエミッションファクターを高い値に設定した際に、45°Sより南緯における船舶観測結果をよく再現した。一方、それ以外の海域では、鉄のエミッションファクターを低い値に設定した際に、船舶観測結果をよく再現した。従来の研究結果と同様に、鉄のエミッションファクターを低い値に設定した際に、西部北太平洋で鉱物エアロゾルに比べて人為起源鉄が主要な水溶性鉄供給源となることを確認した。モデル感度実験結果から、南大洋では、製錬過程からのエアロゾル鉄がエアロゾル水溶性鉄供給量にとって主要となり得ることを示した。そのため、南大洋域への水溶性鉄供給量の予測不確実性低減には、製錬過程からのエアロゾル鉄をより正確に算出することが重要となる。