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[ACG39-09] 深層学習を用いた東シベリアにおけるサーモカルストによる沈降地形の自動検出
キーワード:サーモカルスト、ディープラーニング、衛星画像、永久凍土
北極圏の環境は世界平均よりも急速なペースで変化しており、極域の生態系や人間社会に与える影響の深刻さが懸念されている。特に、気温の上昇に伴う永久凍土の融解は、微生物による土壌中の有機炭素の分解を促進し、温室効果ガス放出をもたらすことで気候変動の将来予測に不確実性を与える。サーモカルストは氷を含む永久凍土が融解し、地表が沈降することで形成される地形であり、永久凍土の劣化の指標となる。広域に分布するサーモカルストによる沈降地形(ポリゴン)の把握は労力がかかるタスクであったが、近年deep learningとリモートセンシング技術を組み合わせることで、ポリゴン地形の自動識別が試みられている。しかし、ポリゴン地形は地域によってサイズや形状が異なるため、対象地域に応じてトレーニングデータを作成するコストが制限要因となっていた。本研究では、大量のトレーニングデータの作成を容易にする新たな手法であるchopped picture methodを用いて、衛星画像からサーモカルストによるポリゴン地形の分類を行った。解析には、Worldview2で撮影されたロシア東部の高解像度のパンクロマチック画像とパンシャープン画像(フォルスカラー合成)を使用し、衛星画像の種類の違いが分類精度に与える影響を調べた。解析の結果、我々のアプローチは発達したサーモカルストによるポリゴン地形を森林や湖、都市のような景観と明確に区別し、自動識別できることが明らかになった。先行研究ではパンクロマチック画像の識別精度が優れていたが、トレーニングデータを改善した結果、パンシャープン画像でも高い精度でポリゴン地形を識別できた。サーモカルストによるポリゴン地形識別のためには、衛星画像の種類だけでなく、適切なトレーニングデータの取得も重要である。本手法は人工衛星データとAIの利用によりサーモカルストによるポリゴン地形の自動識別の低コスト化を実現する。今後は小型衛星の増加に伴い、北極圏研究において、広範囲を効率的に観測可能な衛星画像を利用する機会がさらに増えると考えられる。我々のアプローチは、簡便なサーモカルストによる沈降地形のモニタリングを可能にすることで、北極圏の環境モニタリングに大きく貢献する。
本研究は、文部科学省北極域研究加速プロジェクト(ArCS II: Arctic Challenge for Sustainability II)の助成 (JPMXD1420318865)を受けたものです。
本研究は、文部科学省北極域研究加速プロジェクト(ArCS II: Arctic Challenge for Sustainability II)の助成 (JPMXD1420318865)を受けたものです。