日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG40] 沿岸海洋生態系-1.水循環と陸海相互作用

2023年5月25日(木) 09:00 〜 10:30 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:藤井 賢彦(東京大学大気海洋研究所)、小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、山田 誠(龍谷大学経済学部)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、座長:山田 誠(龍谷大学経済学部)、小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)

09:45 〜 10:00

[ACG40-04] 潮位差の大きい高濁度海域における光消散係数の高頻度な時系列解析

*尾崎 竜也1小森田 智大1、山田 勝雅2、田井 明3比嘉 紘士4 (1.熊本県立大学、2.熊本大学、3.九州大学、4.横浜国立大学)

キーワード:光消散係数、有明海、河口域

・はじめに
干潟を含む河口域は生物生産性が高く,様々な多面的な機能が存在し,海岸線の安定化,水産資源や渡り鳥の採食場所の提供といった食料生産などの重要なサービスを人々に提供する重要な場である.衛星画像を用いた干潟の分布を推定した研究によると干潟の総面積127,971 km2であり,これは全球のマングローブの面積と同程度であることが知られている.また,干潟の高い生物生産性を支持する因子として,潤沢な光環境が挙げられる.海水表面の色とリモートセンシングデータから河口域を含む沿岸域の底層における光合成有効放射を推定した研究も報告されており,全球規模での干潟および河口域の環境データが整備されつつある.
光消散係数は,海水,水柱の溶存有機物,粒子状有機物,植物プランクトンなどが変動要因であることが知られている.河口域は河川によって豊富な栄養塩が供給されるとともに,河川から供給される陸起源の懸濁物が海水との混合に伴う凝集作用により浮泥を形成し,再懸濁されることで高濁度となる.一方で,干出時において強光に曝露される環境にあるように,潮汐作用の非対称性と水平方向の移流により,懸濁物質を含む水質環境は時々刻々と変動する.そのため,河口域では平均して高濁度であり,潮汐作用の影響を強く受けると考えることができ,濁度の変動と同期するように光消散係数も変動すると予想される.光の減衰は底生―浮遊系の生産バランスに大きく関与していることから,河口域の低次生態系を理解する上で,光環境の変化の解明が必須である.しかし,干潟及び河口域における光の減衰に着目した研究は少なく,光消散係数を長期的かつ高頻度に捉えた野外研究は非常に稀である.そこで本研究では,2021 年10-12月の有明海に面する緑川河口域を対象に係留系による調査を行い,現場の10 分間隔で光消散係数を推定する.次に,推定した光消散係数の妥当性を検証し,ランダムフォレストモデルを用いて水質測定データから減衰係数の予測モデルを構築する.最後に,予測モデルにおける説明変数の相対的重要度を比較し,光消散係数の変動要因を考察することを目的とした.
・材料と方法
 緑川河口域の2 地点(中洲,カメ洲)において,2021 年10-12 月にかけて係留系を設置し,10 分間隔で海底直上の光合成有効放射(PAR),クロロフィルa(Chl-a)濃度,水深,水温,濁度を測定した.また,光消散係数の算出に必要な表層PARとして,熊本県立大学の屋上にてPARを測定した.センサーの汚損による影響を限りなく除去するため,係留系のメンテナンスは調査期間中に合計で10 回行った.さらに,係留系の校正のために,多項目水質計を用いて係留系と同様のパラメータを同時刻に測定した.推定した光消散係数を目的変数に,校正した濁度,Chl-a濃度,水温,上げ潮か下げ潮かを判定するための10 分間隔での水深差の4つのパラメータを説明変数として,ランダムフォレスト回帰により予測モデルを構築した.構築した予測モデルから説明変数の相対的な重要度を示すIncNodePurityを算出した.
・結果と考察
 図1 に光消散係数の校正結果を示す.現地の光消散係数は天空光PARと海底直上のPARの2 点を用いて推定したため信頼性を確認する必要がある.そこで,係留系による光消散係数と多項目水質計による鉛直データから求めた光消散係数との間で回帰分析を行ったところ,両者の間に高い相関関係(中洲:r2=0.89,カメ洲:r2=0.67)があることから,係留系により推定した光消散係数が信頼に足ることを示すことができた.図2 は夜間のデータを取り除いた光消散係数の時系列変化である.季節的な変動傾向よりも,短い時間間隔での変動傾向が影響していると考えられ,これは既往研究を支持する結果であった.また,光消散係数の1 日間における最小値と最大値の比率が100 倍以上の日もあることから,河口域において正確な光消散係数の変動を知るためには,長期的かつ高頻度なモニタリングが必要であることが示された.ランダムフォレスト回帰による減衰係数の予測結果が図3 であり,決定係数は両地点で0.5 を超えており,予測精度の高いモデルを構築することができた.IncNodePurityはどちらの地点でも濁度,水温,Chl-a 濃度, 水深差の順に高く,濁度が最も重要であることが示された.