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[ACG40-05] 日本沿岸におけるpHおよびΩaraの短期変動振幅の決定要因
キーワード:pH、アラゴナイト飽和度、酸性化、沿岸域、陸域負荷
日本の沿岸域においても酸性化の進行が確認されており、将来的な沿岸生態系および漁業への影響の懸念が強まる中、沿岸域におけるpHの変動要因を科学的に理解する必要が高まっている。我々はこれまでに日本沿岸の5海域(岩手県宮古、宮城県志津川、新潟県柏崎、岡山県日生、広島県廿日市)でpHおよび関連する海洋環境項目の周年モニタリングを実施し、これらの5海域全てでpHとアラゴナイト飽和度(Ωara)が季節変動に加え、10日間以内の時間スケールの強い短期変動を示すこと、そしてこの短期変動の多くが、各海域における降雨イベントと同期していることを見出した(Fujii et al., 2023; 小埜ら, 2021年秋季海洋学会)。現状では沿岸域のΩaraが長期にわたって生物に影響を与えるほどの低い値(例えばマガキの酸性化影響発現閾値Ωara=1.5, Waldbusser et al., 2015)を示すことはなく、酸性化リスクが発生しているのは短期変動に伴うpHとΩaraの低下時 のみである。従って、仮にpHとΩaraの短期変動の振幅を何らかの方法で抑えることができれば、現在および近未来における日本沿岸域の酸性化リスクは大幅に軽減できる。
そこで我々は上記5海域の観測データに、公開されている東京湾川崎人工島のpH連続観測データ(東京湾環境情報センター水質連続観測データ:https://www.tbeic.go.jp/MonitoringPost/Top )も加え、合計6海域のpHおよび関連海洋環境パラメータの連続データを解析して、それぞれの短期変動シグナル間の関連を精査した。その結果、pHの10日間変動成分(1時間毎に取得したpHデータの10日間の変動係数、10dSDpH)と塩分の10日間変動成分(10dSDsal)の間に以下のような関係が存在することがわかった(図1および図2)。
1. 10dSDsalと10dSDpHは全ての海域で正相関を示し、しかもその傾きは、塩分変動が小さい時(10dSDsal<0.7)には全ての海域で一定値(D 10dSDpH/ D 10dSDsal =0.079)を示す。
2. 東京湾では10dSDsalがどこまで大きくなっても10dSDsal<0.7の時と同じ傾きで10dSDpHが増加するが、他の5海域では10dSDsalが0.7を超えるとpH変動の増加率(D 10dSDpH/ D 10dSDsal)が低下する。
3. 10dSDsal>0.7における短期塩分変動と短期pH変動の相関の傾き(D 10dSDpH/ D 10dSDsal)を、各海域に流入する一級河川の栄養塩濃度に対してプロットすると、ほぼ直線関係に近い正相関が得られる。
これらの結果は、沿岸域におけるpHの短期変動が、河川の増水時に河口域から輸送された有機物の分解によって引き起こされていること、また河川の栄養塩濃度が高い海域ほど増水時に輸送される有機物量の上限が高いことを仮定すれば矛盾なく説明できる。またこの結果から、河川の栄養塩濃度を減少させるか、あるいは直接河口域に藻場を造成するなどして堆積した有機物の移動を制限してやることによって、増水時に周辺沿岸域に輸送される有機物量を減らし、それにより沿岸域のpHの短期変動を抑えることができる可能性が示唆される。
そこで我々は上記5海域の観測データに、公開されている東京湾川崎人工島のpH連続観測データ(東京湾環境情報センター水質連続観測データ:https://www.tbeic.go.jp/MonitoringPost/Top )も加え、合計6海域のpHおよび関連海洋環境パラメータの連続データを解析して、それぞれの短期変動シグナル間の関連を精査した。その結果、pHの10日間変動成分(1時間毎に取得したpHデータの10日間の変動係数、10dSDpH)と塩分の10日間変動成分(10dSDsal)の間に以下のような関係が存在することがわかった(図1および図2)。
1. 10dSDsalと10dSDpHは全ての海域で正相関を示し、しかもその傾きは、塩分変動が小さい時(10dSDsal<0.7)には全ての海域で一定値(D 10dSDpH/ D 10dSDsal =0.079)を示す。
2. 東京湾では10dSDsalがどこまで大きくなっても10dSDsal<0.7の時と同じ傾きで10dSDpHが増加するが、他の5海域では10dSDsalが0.7を超えるとpH変動の増加率(D 10dSDpH/ D 10dSDsal)が低下する。
3. 10dSDsal>0.7における短期塩分変動と短期pH変動の相関の傾き(D 10dSDpH/ D 10dSDsal)を、各海域に流入する一級河川の栄養塩濃度に対してプロットすると、ほぼ直線関係に近い正相関が得られる。
これらの結果は、沿岸域におけるpHの短期変動が、河川の増水時に河口域から輸送された有機物の分解によって引き起こされていること、また河川の栄養塩濃度が高い海域ほど増水時に輸送される有機物量の上限が高いことを仮定すれば矛盾なく説明できる。またこの結果から、河川の栄養塩濃度を減少させるか、あるいは直接河口域に藻場を造成するなどして堆積した有機物の移動を制限してやることによって、増水時に周辺沿岸域に輸送される有機物量を減らし、それにより沿岸域のpHの短期変動を抑えることができる可能性が示唆される。