日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG40] 沿岸海洋生態系-1.水循環と陸海相互作用

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (8) (オンラインポスター)

コンビーナ:藤井 賢彦(東京大学大気海洋研究所)、小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、山田 誠(龍谷大学経済学部)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[ACG40-P04] 北海道勇払川における支流域間で産卵遡上行動が異なる野生サケ
(Oncorhynchus keta) の遡上数自動計測

*布川 雅典1権田 豊2梶原 瑠美子1 (1.国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所、2.新潟大学)

キーワード:魚カウンター、遡上行動、河川水温、長期間計測、サケ資源保全

サケ(Oncorhynchus keta)は、世界中で重要な水産資源であるとともに、海洋から河川上流や陸域への栄養物(MDN: marine derived nutrients)の担い手としても重要な生物である。しかし、近年の地球温暖化による河川水温の上昇は、サケの遡上時期や産卵期間への影響が懸念されている。サケは、同じ河川でも遡上時期の違いにより、9月から11月の前期遡上個体群(以下前期群)と12から1月の後期遡上個体群(以下後期群)が存在する。前期群の産卵床の間隙は河川水で満たされていることが多く、河川水温の影響を受けやすいと考えられる。そのため、サケの個体群ごとの遡上数を正確に明らかにすることは、今後の水産資源保全に加え、河川生態系保全の観点で重要である。一般的に、魚道等での魚類遡上数の計測には、トラップ等で捕獲する方法や遡上行動の映像から計数する方法が用いられている。しかし、調査者の労力は大きく、かかる時間や経費も小さくない。また、後者であれば夜間や濁水時の計測は難しい。他方、魚カウンターは、1950年代にイギリスで開発され、微弱電流を流す電極をとり付けた誘導水路内の河川水と魚体の電気抵抗の違いを利用して、魚類の遡上あるいは降下数を自動計測する装置である。我が国ではサケ遡上数は少なくないものの、魚カウンターの市販品がなかったことからか自動計測は行われてこなかった。近年市販品が販売され、新潟県や北海道において、魚カウンターによるサケ遡上数の自動計測が行われるようになってきている。そこで、本研究では、サケ前期個体群と後期個体群が遡上する北海道苫小牧市を流れる勇払川流域で、複数の魚カウンターを用いてそれぞれの個体群の遡上数を明らかにし、流域内での個体群動態の違いを把握することとした。
勇払川に設置された可動堰であるウトナイ堰とトキサタ堰において、2019年および2020年の8月あるいは9月から2月までの期間に魚カウンターを用いて遡上数を計測した。勇払川流域には中流部にウトナイ湖があり、このウトナイ湖にはサケ遡上河川として勇払川と美々川のみが流入し、湖からは勇払川が流出している。また、勇払川には、ウトナイ湖から約1.5 km下流にウトナイ堰、ウトナイ湖から約3.0 km上流にトキサタ堰が、魚道とともに設置されている。
計測の結果、下流側のウトナイ堰では2019年および2020年の遡上数が、605個体および402個体それぞれ計測された。一方で、トキサタ堰での各年の遡上数は、101個体および123個体がそれぞれ計測された。また、ウトナイ堰では11月以降1月まで遡上が確認された。しかし、勇払川上流のトキサタ堰でのサケ遡上は、両年ともに10月までであり、11月以降では2019年に1個体確認されたのみであった。これらの結果から、前期個体群は勇払川および美々川の両川に遡上しているが、後期個体群は美々川のみに遡上していることが明らかとなった。
今回の調査では複数の魚カウンターを用いて支流の合流点の上下流に設置することで、それぞれの支流への遡上数と遡上時期を明らかにすることができた。その結果、流域内の支流ごとで産卵行動の異なる個体群が観察され、わが国では非常に珍しい事例となった。魚カウンターを用いて自動計測を行うことで、これまで知られていなかったことが明らかになり、このようなデータの蓄積がサケ個体群の保全に寄与すると考えられた。