日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG41] 沿岸海洋生態系-2.サンゴ礁・藻場・マングローブ

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:梅澤 有(東京農工大学)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)、中村 隆志(東京工業大学 環境・社会理工学院)、渡辺 謙太(港湾空港技術研究所)、座長:梅澤 有(東京農工大学)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)、中村 隆志(東京工業大学 環境・社会理工学院)、渡辺 謙太(港湾空港技術研究所)

14:55 〜 15:10

[ACG41-05] スズメダイとチンアナゴの比較から解く乱流が与える珊瑚礁魚類の摂食行動への影響

*石川 昂汰1,2呉 衡1御手洗 哲司1、Genin Amatzia3 (1.沖縄科学技術大学院大学、2.日本学術振興会特別研究員 DC、3.ヘブライ大学)


キーワード:流れ、小規模乱流、摂食行動、運動、バイオメカニクス

動物プランクトンを餌とする魚類にとって、流れは魚と餌の両方の動きに影響を与えることから、摂食に大きな影響を与える環境要因である。したがって、魚類の生息地での流れとそれに対する魚類の摂食行動の応答を理解することは、適応や生息地選択といった生態学的特性を推定するのに重要である。
先行研究では流体力学的側面を単純化するため、一様流の影響が調べられてきたが、実際の魚類の生息地で起きている流れの速さや向きの無秩序な変化を伴う乱流が与える影響は調べられてこなかった。本研究では、珊瑚礁魚類の生息地で乱流を計測し、その乱流強度を再現した回流水槽で動物プランクトン食性魚類へ乱流が与える影響を評価した。遊泳して餌をとるスズメダイと砂に体の一部を埋めたまま餌をとるチンアナゴの二つの異なる摂食様式をもつ魚類を対象とし、比較した。
スズメダイとチンアナゴは流体力学的に異なる環境にすむ。スズメダイは多くの珊瑚や岩に覆われた地形の比較的浅い海域(<5 m)にすみ、チンアナゴは主に砂に覆われた平坦な地形の比較的深い海域(>10 m)に生息する。それぞれの生息地で乱流を計測したところ、スズメダイは波浪による振動流でより速い流速、強い乱流を経験している一方で、チンアナゴは潮流による一方向の流れでより遅い流速、弱い乱流を経験していることが明らかになった。
これらの魚類の摂食に与える小規模乱流の影響を調べるため、生息地で計測した乱流強度と同等の乱流を回流水槽内で生成した。3段階の乱流強度と2段階の流速を使い、摂食行動試験を実施した。その結果、スズメダイでは遅い流速下で、チンアナゴでは速い流速下で、強い乱流が摂食率の低下を引き起こした。これらの条件下で、スズメダイは有意に行動範囲を狭め、チンアナゴは有意に摂食成功率を低下させていた。両方の魚において、乱流強度の変化は餌の追跡距離、時間、速度に有意に影響を与えなかった。
生息地における乱流計測と回流水槽を用いた実験を組み合わせることで、異なる摂食様式をもつスズメダイとチンアナゴがそれぞれの生息域の地形や流体力学的環境に適した摂食戦略を持つことを明らかにした。