日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG41] 沿岸海洋生態系-2.サンゴ礁・藻場・マングローブ

2023年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:梅澤 有(東京農工大学)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)、中村 隆志(東京工業大学 環境・社会理工学院)、渡辺 謙太(港湾空港技術研究所)、座長:梅澤 有(東京農工大学)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)、中村 隆志(東京工業大学 環境・社会理工学院)、渡辺 謙太(港湾空港技術研究所)

15:45 〜 16:00

[ACG41-07] 海藻藻場におけるDOM生産量の群衆レベルでの解析

*伊藤 武留1和田 茂樹1 (1.筑波大学)


キーワード:藻場、溶存態有機物、炭素隔離

地球温暖化抑制のための二酸化炭素の隔離手段の1つとして、藻場が注目を集めている。藻場の炭素隔離は藻体や溶存態有機物(DOM: Dissolved Organic Matter)の深海への輸送が知られている。海藻のDOM生産に関する研究は一部の大型の海藻類に偏っており、多様な海藻種が生育する自然群集のDOM生産量を評価した例はほとんどない。海藻のDOMの生産は、能動的な細胞外への有機物の放出と、藻体がダメージを受けた際に生じる細胞内有機物の溶出によって生じる。そのため、定量的にDOMの生産量を評価する際には、藻体を傷つけないサンプリング手法が必要となる。そこで本研究では、非破壊的な手法を用いて海藻群集のDOM生産量を測定することとした。

本研究では、石材タイルを海底に設置してタイル上に加入する海藻群集を用いることとした。この手法は、タイル上の海藻群集の遷移に数か月以上の時間を要するが、一定面積に生育する海藻群集を非破壊的に運搬することが可能である。本実験は、静岡県下田市筑波大学下田臨海実験センターに隣接する大浦湾で行った。下田市沿岸は、200種類以上の海藻が生息する、藻類の多様性が高い海域として知られているが、近年はカジメ林が衰退し、紅色石灰藻や小型海藻を主とする藻類群集に置き換わっている。2022年8月 に大浦湾の水深約5mの海底に石材タイル(13cm x13cm)を設置し、タイル上の海藻被度の変遷を評価した 。また、2023年2月 にタイルを回収し(N=3)、実験室下において明条件(200 μmol m-2 s-1)で海藻に覆われたタイルの培養実験を行った。経時的に海水を採取し、ガラス繊維ろ紙でろ過を行った後、全有機炭素計(TOC-V, Shimadzu)を使用し、溶存態有機炭素(DOC: Dissolved Organic Carbon)濃度を測定した。

 設置から約半年経過した石材タイル表面は石灰藻、小型の海藻または柔らかい堆積物に覆われ、5cm未満の海藻が繁茂していた。3枚のタイルから24種類の海藻が特定され、どのタイルでも紅藻が優占していた。培養実験中の水槽中のDOC濃度は有意に上昇し、単位面積当たりのDOC生産量は6.65 ± 1.31 mg C m-2 h-1であった。

本研究では、多様な海藻類が混在する群集レベルでDOC生産量を測定することを可能とした。コンブ類など大型の海藻を対象とした先行研究では、単位面積当たりのDOC生産量は、10-240 mg C m-2 h-1といった見積もりが為されており(Mohammed et al. 2004; Wada et al. 2008)、それらと比較すると本研究の値は小さい。これは、タイル上の海藻群集が、極相まで達しておらず小型の海藻のみであったことで過小評価されている可能性がある。