日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 陸域から沿岸域における水・土砂動態

2023年5月23日(火) 09:00 〜 10:15 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:有働 恵子(東北大学大学院工学研究科)、浅野 友子(東京大学)、木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、山崎 大(東京大学生産技術研究所)、座長:有働 恵子(東北大学大学院工学研究科)、木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)

09:00 〜 09:15

[ACG42-01] 陸から海への影響を扱うマクロな視点に向けて

★招待講演

*羽角 博康1 (1.東京大学大気海洋研究所)

海洋には主に降水と陸水流出によって淡水が供給され、その比は全球平均でおよそ10:1である。これらは蒸発とともに水位や塩分に対する境界条件として海洋の流れ等の物理現象の支配要因となる。また、陸水流出は陸域の様々な溶存物質や土砂等懸濁物質も海洋に供給する。海洋基礎生産に必要な窒素・リン・ケイ素・鉄などを含む栄養物質の主な供給源は海洋深層水湧昇と陸水流出であるが、両者の全球平均での比は、陸水からは溶存物質として供給される窒素やリンで10:1程度、陸水中では土砂を起源とする鉄の場合は陸水流出の方が大きい。こうした供給量の観点から考えれば、陸水流出は海洋に対してグローバルに少なからぬ影響を及ぼしているはずであるが、外洋域への陸水流出の影響は十分に調べられているとは言えない。一方、沿岸域は当然ながら陸水流出の影響をさらに大きく受けるが、外洋域からの影響との間の相対的な重要性は未だ明らかではない。
さらには、人間活動に起因して陸水流出の様相が大きく変化しており、それに伴って陸水の海洋に対する影響の及ぼし方が大きく変わりつつある。全世界で河川を通して海洋に供給される窒素およびリンの総量は、人工肥料の使用量増加を主な原因として20世紀中に倍増したと見積もられている。一方、外洋海水が持つ栄養物質の起源となる深層からの湧昇は気候温暖化により減少している。気候温暖化は河川の変化を通しても海洋への物質供給に大きな影響を及ぼす。日本では豪雨や強勢な台風の増加により河川大量出水の頻度や強度が増しており、その際には陸域の様々な物質を大量に含む濁流が沖合まで一挙に流出する。
陸水流出が海洋に及ぼす影響は沿岸域のローカルな視点で従来研究されてきたが、上記のような背景や変化に鑑みていま必要とされるのはグローバルな視点からの研究である。本講演では、こうした動機のもとで2022年に開始された研究プロジェクト「マクロ沿岸海洋学」の概要を紹介しながら、陸から海への影響を扱う研究の方向性を議論したい。