日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 陸域から沿岸域における水・土砂動態

2023年5月23日(火) 09:00 〜 10:15 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:有働 恵子(東北大学大学院工学研究科)、浅野 友子(東京大学)、木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、山崎 大(東京大学生産技術研究所)、座長:有働 恵子(東北大学大学院工学研究科)、木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)

09:15 〜 09:30

[ACG42-02] 2011 年9 月の台風(12 号) によって河川から海洋に流出した福島原子力発電所起源の放射性セシウム分布

*田中 潔1長尾 誠也2北出 裕二郎3、仁木 将人4、勝間田 高明4美山 透5吉成 浩志6 (1.東京大学、2.金沢大学、3.東京海洋大学、4.東海大学、5.海洋研究開発機構、6.北海道大学)

キーワード:福島第一原子力発電所、陸上降下、豪雨、河川流出、黒潮親潮混合域、陸-川-海を繋ぐ水循環

1. はじめに
2011年3月に発生した東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故では、多量の放射性セシウムが海洋に流出した。本研究では、放射性セシウムが海洋に至る過程が幾つか有る中で、陸上に降下した放射性セシウムが河川を経て海洋に流出して拡がる過程に着目した。
一般に、河川の大規模出水時の海洋観測は、悪天候のため困難であることが多い。しかし、本研究では台風に伴う極めて大規模な出水から8日以内に、黒潮親潮混合域の緯度帯に位置する常磐沖の広範な海域で観測を実施することに成功した。実はこのとき、常磐地域の主要河川である利根川と那珂川では、2007年以来の、記録的な大規模出水が生じていた。本研究ではこのときの観測結果に基づき、「陸と川と海」を繋ぐ水循環と、それに伴う放射性セシウムの海洋への流出過程を調べた。

2. 観測方法
2011年9月7日~12日の期間、茨城県を中心とする常磐沖で水温・塩分の深度分布観測(CTD)と測流(ADCP)、及び表層水(深度10 m)の採水を実施した(淡青丸KT-11-22次 震災対応航海)。採水した海水中の放射性セシウムの濃度測定は、金沢大学低レベル放射能実験施設及び尾小屋地下実験施設におけるゲルマニウム半導体検出器を用いて行った。本研究では、134Csと137Csの溶存態及び粒子態の全ての濃度合計値について、測定日から採取日に壊変補正を施したものを「放射性セシウム濃度」と表記する。

3. 結果
表層の放射性セシウム濃度と塩分の分布を見ると(図1、○印)、原子力発電所に近い測線よりも、遠くに位置する測線のほうが比較的高濃度の放射性セシウムが検出された。また、沖合で高濃度セシウムが検出された測点では、塩分が低い傾向が見られた(図1、黒破線略)。こうした分布の特徴は、観測直前の那珂川や利根川の上流域において、積算降水量が500 mm(8日間)を超える豪雨が生じて、それよって大規模な出水が引き起こされたためのものである(図2a)。そして実は、これらの豪雨域には、多量の放射性セシウムが予め沈着していた(図2b)。
さらに、これらの大規模出水は、海洋での大規模ブルーミングも引き起こしていた。すなわち、出水が生じる前は、クロロフィル高濃度域は岸近傍に限られていたが(図略)、出水が生じた直後の観測期間中は、クロロフィル高濃度域が遙か沖合にまで拡がっている(図1、色塗り部分)。そして、沖合に拡がったクロロフィル高濃度域は、低塩分域とも良く一致する。

図説明
図1:表層(深度10 m)の放射性セシウム濃度(カラー○印)と、観測期間中のクロロフィルa の海面分布(Korea Ocean Satellite Center 静止海色衛星GOCIより)。黒色破線は塩分33.2 の等値線(低塩分域)を表す。下向き緑三角▼印は、久慈川・那珂川・利根川の河口位置を表す。
図2:(a) 観測直前8日間の積算降水量(気象庁 解析雨量データより)。(b) セシウム137の初期沈着量(筑波大学 アイソトープ環境動態研究センターデータセットより)。灰色太線は久慈川・那珂川・利根川水系の流路を、黒色太実線は各水系の流域境界を表す(国土交通省国土数値情報データより)。
(Tanaka et al., 2022, Limnology and Oceanography, doi:10.1002/lno.12065より)