日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 陸域から沿岸域における水・土砂動態

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:有働 恵子(東北大学大学院工学研究科)、浅野 友子(東京大学)、木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、山崎 大(東京大学生産技術研究所)、座長:浅野 友子(東京大学)、山崎 大(東京大学生産技術研究所)

10:45 〜 11:00

[ACG42-06] 山間部からの土砂流出シミュレーションシステムの開発と防災への適用

★招待講演

*中谷 加奈1 (1.京都大学)

キーワード:土砂流出、シミュレーション、防災、土石流、土砂・洪水氾濫

土石流による被害の防止軽減には影響範囲の把握が求められ、シミュレーションは有効なツールとなる。筆者は山地渓流から扇状地までの多様な条件を一つのシステムで計算可能なフレームワークとして統合モデルを構築した。GUIの実装やGISとの連携により、情報の入出力を視覚化して直感的な理解を助けることで、専門家以外のユーザーにも扱いやすい汎用性の高い土石流シミュレータを開発し、国内外で砂防施設の配置や危険箇所把握などの防災対策の検討に幅広く適用されている。
研究成果をシミュレータに実装することで、実現象に近い土石流計算を可能にした。細粒土砂を多く含む土石流は流動性が高く緩勾配まで到達すると報告されるが、定性的な検討に留まった。実験と既往理論の比較から、土砂の混合で発生する乱れによって細粒土砂が液相として挙動することを示し、計算で挙動を表現するための液相密度の設定方法を提案した。住宅地では土石流挙動に建物や道路が影響することが報告されていたが、定量的な検討がなかった。模型実験や災害調査、計算から、流れが建物で阻害されて広がること、建物上流で堆積すること、道路は土石流の移動経路となって影響範囲が拡大することを示した。GISと連携したシステムでは、高解像度で建物高を反映した地形データを用いると計算で住宅地の土石流挙動を表現することを示した。計算から住宅地の詳細なリスク分布を明らかにすることで、危険な建物や道路の抽出、垂直避難の提案など具体的な避難行動の検討を可能にした。今後も、現象のモデル化が進み、プラットフォームに統合・置換することができれば、より各地域の特性を考慮した検討が可能となる。
システムを用いて、土石流だけでなく掃流砂や土砂流による河床変動、長区間・長時間にわたって下流まで影響する土砂・洪水氾濫について調査や実験、シミュレーションによる検討を進めている。2018年西日本豪雨で発生した土砂・洪水氾濫について、適切なハイドログラフ等のシナリオを設定すると、山間部から下流までの計算により中・下流での流動や氾濫・堆積過程を再現することを示した。
本発表では、このような山間部からの土砂流出シミュレーションシステムの開発と防災への適用について紹介する。