日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 陸域から沿岸域における水・土砂動態

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:有働 恵子(東北大学大学院工学研究科)、浅野 友子(東京大学)、木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、山崎 大(東京大学生産技術研究所)、座長:浅野 友子(東京大学)、山崎 大(東京大学生産技術研究所)

11:00 〜 11:15

[ACG42-07] 阿武隈川下流域における上流からの流入土砂特性が土砂動態に及ぼす影響

*鈴木 志門1有働 恵子2中原 大輔2 (1.東北大学 工学部、2.東北大学大学院 工学研究科)


キーワード:土砂動態、河床変動、土砂流出量、土砂の境界条件、阿武隈川

背景・目的
 戦後の高度経済成長に伴い,河川から海域への土砂供給量の減少や海岸構造物による沿岸漂砂の阻止によって,日本全国で急速に砂浜侵食が進行している.また,河道内の土砂堆積は洪水の流下能力の低下による氾濫リスクの増大を引き起こし,土砂侵食は河川管理施設の安全性に悪影響を及ぼす可能性がある.将来の気候変動に備え,河川から海岸へ供給される土砂量,及び河道の河床変動を定量的に把握することが求められている.
 上流から流入する土砂特性(土砂量や粒度分布)を適切に入力することは,河床変動解析を行う上で非常に重要である.山地部での斜面崩壊による影響を想定した解析事例は数多く報告されているが,流域内の土砂動態を長期スケールかつ粒径毎に評価した研究は少ない.本研究では,上流端条件として異なる土砂流入量と粒度分布を与えることで,山地部での斜面崩壊を想定した様々なケースを設定し,阿武隈川下流域の土砂動態に及ぼす長期的影響を評価した.

解析方法と条件
 本研究では,竹林・藤田の1次元混合粒径河床変動解析モデルを用いた.掃流砂量は芦田・道上式を,k粒径階に対する無次元掃流力は修正Egiazaroff式を,基準点高さにおけるk粒径階の平衡浮遊砂濃度はLane and Kalinskeの式を,浮遊砂の沈降速度はRubeyの式を用いて解析を行なった.
 対象とする解析区間は,阿武隈川下流域の丸森から荒浜までの36.4kmで,2000年から2019年の20年間で流量が1,000m3/sを超える53出水を対象とした.初期条件である河床位及び河床材料の粒度分布は,国土交通省提供の1999年実測値を与えた.境界条件である上流端流量と下流端水位は,それぞれ丸森水位観測所と荒浜水位観測所の実測値を用いた.
 上流から平衡流砂量を供給したケース(Case0)の結果を元に,上流からの流入土砂特性に関して3つのケースに分けて感度分析を行った.Case1は土砂流入量をCase0の0.5, 2, 5倍に設定,Case2は流入土砂の粒度分布を3パターン(中砂8割,粗砂8割,広い粒径範囲)に設定,Case3は流砂量のピークが流量ピークの2, 4時間前,2, 4時間後となるように設定してそれぞれ計算した.流砂の大部分は浮遊状態で運ばれることを考慮し,本研究では浮遊砂の流入条件を変えた.

結果
 平衡流砂量を供給した場合(Case0)について,年平均土砂流入量は約13.5万m3で,そのうち約8割を細砂が占めている.年平均土砂流出量は約15.9万m3で土砂流入量を上回ることから,20年間において解析区間全体で侵食傾向にあると考えられる.河床変動高のRMSEは区間全体で0.35mであった.
 土砂流入量を変えた場合(Case1)について,土砂流入量を増やしたケースでは,区間全体で河床位の上昇と河床材料の細粒化が確認された.また,土砂流入量を大きくするほど土砂流出率(ここでは土砂流入量に対する土砂流出量の割合として定義する)が減少することから,上流から大量に土砂が流入した場合,その多くが河口から流出する前に河道に堆積する可能性がある.
 流入土砂の粒度分布を変えた場合(Case2)について,上流から流入する中砂及び粗砂の多くが,河床勾配が比較的緩やかな上流端付近に堆積する.また,土砂流出量はCase0よりも小さくなり,いずれのケースも細砂が土砂流出量の5割以上を占めた.河口から流出する土砂量は,上流から流入する細砂の土砂量と河道に堆積する細砂の量によって大きく変化すると考えられる.
 土砂供給のタイミングを変えた場合(Case3)について,流砂量ピークを早めるほど細砂の流出量が若干増加した.また,Case0の結果と比較して地形変化は小さいことが確認された.

結論
 本研究では,山地部での斜面崩壊を想定した様々なケースを設定して阿武隈川下流域の土砂動態を評価した.土砂流入量が増加するほど河道内の堆積量が増加し,区間全体で細粒化の傾向が確認された.特に,上流から流入する中砂及び粗砂の多くが,上流端付近に堆積する.流入土砂の粒度分布によらず,細砂が土砂流出量の5割以上を占めることから,土砂流出量は細砂に依存する可能性があることが示された.