11:30 〜 11:45
[ACG42-09] 一級河川流域から海洋への土砂流出量およびその流域体積に対する割合の推定
キーワード:浮遊土砂、L-Q式、土砂管理
1.本研究の背景と目的
土砂は国土としての資源や環境・景観を保全する役割を担う一方,土砂災害や環境汚染を引き起こす負の側面も持つ.土砂を有効活用し,諸問題を解決するためには土砂動態を正確に把握することが必要である.山本 (2014)は,個別領域ごとではなく流砂系全体で総合的に土砂を管理することを提案している.総合的な土砂管理を行う上では河川中の浮遊土砂 (Suspended Solid: SS)を連続観測することが重要だが,そのような観測データは少なく,日本全国規模で土砂量の空間分布を把握した研究は稀である.そこで本研究では,浮遊土砂流出量L (SS ×Q )と河川流量Qの関係式を用いて,河川流量データを用いて流域ごとの浮遊土砂輸送量を算出し,日本全体で土砂流出量の空間分布を可視化することを目的とした.これに加えて土砂流出量が流域体積に対する割合も推定した.
2.方法
本研究はまず,日本全国の一級河川下流域におけるL-Q式または浮遊土砂輸送量Lと流量Qの関係を表したグラフが載っている文献を調査し,数値を読み取って L-Q式を求めた.グラフから数値を読み取る場合は北海道大学原子核反応データ研究開発センターが開発・公開しているグラフ数値読取システム (GSYS, SyGRD) の最新版を利用した.L-Q式が求められない河川については,武川・二瓶 (2013) が提案した,山林率が50 %未満の流域に土砂流出量推定式であるL’-Q’ 式を利用した.これらのL-Q式と河川流量データから流域ごとに年間の浮遊土砂流出量を推定した.
次に,各流域の平均標高値と流域面積から現在の流域の体積を計算した.また,電子基準点データから求めた流域ごとの隆起速度の平均値と流域面積から年間の流域の体積増加量を計算した.年間の体積増加量から年間の浮遊土砂輸送量を差し引いたものを流域の正味体積増加速度とし,これを流域体積で割ることで流域の体積に対する年間の正味体積増加量の割合を求めた.
3.結果
年間の浮遊土砂流出量の空間分布を推定した結果,土砂流出量に関して地域的な偏りがあることが分かった.具体的には北海道東部,関東地方の北部,信越地方,中部地方,四国および中国地方の一部で大きな値を示している.この結果を有働ら (2016)や,秋本ら (2009)の土砂量計算結果と比較したところ,本研究とこれらの既往研究の値には正の相関があることが分かった.また,武川・二瓶 (2013)の式を用いて計算した値は過小評価になっている可能性があること分かった.
流域の平均隆起速度を推定した結果,平均隆起速度は北緯40°付近と日本列島の中心部で大きいことが分かった.また,流域の体積増加量を指定した結果,体積増加量は北海道地方,北緯40°付近そして日本列島の中心部で大きいことが分かった.流域の正味体積増加速度を推定した結果,正味体積増加速度は北海道西部,北緯40°付近そして近畿地方で大きいことが分かった.流域の体積に対する年間の正味体積増加量の割合を推定した結果(図1),北緯40°付近で体積増加量の割合が大きい地域が分布していることが分かった.
4.まとめ
本研究は流域ごとの浮遊土砂流出量の空間分布を把握し,浮遊土砂の流出が各流域の体積の増減に与える影響を推定した.その結果,(1)土砂の流出量には地域的な差があること,(2)北緯40°付近と日本列島の中心部で隆起速度が大きいこと(3)体積増加量は北海道地方,北緯40°付近そして日本列島の中心部で多いこと,(4)正味の体積増加速度は北海道西部,北緯40°付近そして近畿地方で大きいこと,(5)正味体積増加量の割合は北緯40°付近で大きいことが分かった.現在のところ日本全国規模で隆起量を考慮した土砂量を推定した研究は無く,本研究は総合土砂管理に向けて新たな知見を提供できたと言える.しかし,武川・二瓶 (2013)の式の利用が土砂量を過小評価した可能性があるため,計算の精度については再度,検討する必要がある.
土砂は国土としての資源や環境・景観を保全する役割を担う一方,土砂災害や環境汚染を引き起こす負の側面も持つ.土砂を有効活用し,諸問題を解決するためには土砂動態を正確に把握することが必要である.山本 (2014)は,個別領域ごとではなく流砂系全体で総合的に土砂を管理することを提案している.総合的な土砂管理を行う上では河川中の浮遊土砂 (Suspended Solid: SS)を連続観測することが重要だが,そのような観測データは少なく,日本全国規模で土砂量の空間分布を把握した研究は稀である.そこで本研究では,浮遊土砂流出量L (SS ×Q )と河川流量Qの関係式を用いて,河川流量データを用いて流域ごとの浮遊土砂輸送量を算出し,日本全体で土砂流出量の空間分布を可視化することを目的とした.これに加えて土砂流出量が流域体積に対する割合も推定した.
2.方法
本研究はまず,日本全国の一級河川下流域におけるL-Q式または浮遊土砂輸送量Lと流量Qの関係を表したグラフが載っている文献を調査し,数値を読み取って L-Q式を求めた.グラフから数値を読み取る場合は北海道大学原子核反応データ研究開発センターが開発・公開しているグラフ数値読取システム (GSYS, SyGRD) の最新版を利用した.L-Q式が求められない河川については,武川・二瓶 (2013) が提案した,山林率が50 %未満の流域に土砂流出量推定式であるL’-Q’ 式を利用した.これらのL-Q式と河川流量データから流域ごとに年間の浮遊土砂流出量を推定した.
次に,各流域の平均標高値と流域面積から現在の流域の体積を計算した.また,電子基準点データから求めた流域ごとの隆起速度の平均値と流域面積から年間の流域の体積増加量を計算した.年間の体積増加量から年間の浮遊土砂輸送量を差し引いたものを流域の正味体積増加速度とし,これを流域体積で割ることで流域の体積に対する年間の正味体積増加量の割合を求めた.
3.結果
年間の浮遊土砂流出量の空間分布を推定した結果,土砂流出量に関して地域的な偏りがあることが分かった.具体的には北海道東部,関東地方の北部,信越地方,中部地方,四国および中国地方の一部で大きな値を示している.この結果を有働ら (2016)や,秋本ら (2009)の土砂量計算結果と比較したところ,本研究とこれらの既往研究の値には正の相関があることが分かった.また,武川・二瓶 (2013)の式を用いて計算した値は過小評価になっている可能性があること分かった.
流域の平均隆起速度を推定した結果,平均隆起速度は北緯40°付近と日本列島の中心部で大きいことが分かった.また,流域の体積増加量を指定した結果,体積増加量は北海道地方,北緯40°付近そして日本列島の中心部で大きいことが分かった.流域の正味体積増加速度を推定した結果,正味体積増加速度は北海道西部,北緯40°付近そして近畿地方で大きいことが分かった.流域の体積に対する年間の正味体積増加量の割合を推定した結果(図1),北緯40°付近で体積増加量の割合が大きい地域が分布していることが分かった.
4.まとめ
本研究は流域ごとの浮遊土砂流出量の空間分布を把握し,浮遊土砂の流出が各流域の体積の増減に与える影響を推定した.その結果,(1)土砂の流出量には地域的な差があること,(2)北緯40°付近と日本列島の中心部で隆起速度が大きいこと(3)体積増加量は北海道地方,北緯40°付近そして日本列島の中心部で多いこと,(4)正味の体積増加速度は北海道西部,北緯40°付近そして近畿地方で大きいこと,(5)正味体積増加量の割合は北緯40°付近で大きいことが分かった.現在のところ日本全国規模で隆起量を考慮した土砂量を推定した研究は無く,本研究は総合土砂管理に向けて新たな知見を提供できたと言える.しかし,武川・二瓶 (2013)の式の利用が土砂量を過小評価した可能性があるため,計算の精度については再度,検討する必要がある.