日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 陸域から沿岸域における水・土砂動態

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (8) (オンラインポスター)

コンビーナ:有働 恵子(東北大学大学院工学研究科)、浅野 友子(東京大学)、木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、山崎 大(東京大学生産技術研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[ACG42-P03] 東京大学の生態水文学研究所における水・土砂観測研究の100年

*浅野 友子1水内 佑輔1、佐藤 貴紀2、田中 延亮1 (1.東京大学、2.東京農業大学)

キーワード:試験流域、量水堰堤、水・土砂動態、100周年、はげ山

東京大学大学院農学生命科学研究科生態水文学研究所は2022年に設立から100年を迎えた。約100年前、木材資源の過剰な利用によって山が荒廃していた愛知県瀬戸市に東京帝国大学教授の諸戸北郎が試験流域を設定し、量水観測を開始した。本発表では、設立以降に行われてきた、水や土砂に関する研究成果を概観し、100年近く観測を継続したことでわかってきたことを紹介する。
主な研究成果
大きな成果は急峻な地形と湿潤な気候条件下にある山地小流域での精度の高い量水観測方法の確立とデータの蓄積である。流量の変化が大きいため、矩形ノッチを複数並べた特徴的な構造の量水堰堤が考案・設置され、90年以上ほぼ同じ方法でデータが取得されてきた。大雨時に流出してプールに貯まる土砂の撤去や落葉の除去などの気の抜けない作業を継続してきた成果が、欠測の少ない観測データに集約されている。蓄積された観測データから森林回復に伴う蒸発散量の増加、直接流出量の減少などが明らかになった。詳細な観測から斜面の水移動メカニズムについて、降雨時には地中の選択的な流れが卓越し、洪水流を形成するといった、今では斜面水文学分野の常識となっているが当時は世界的にも先駆的だった知見が得られている。
100年近く観測を継続してわかったこと
一つの流域での継続的な観測により森林の回復にともなう流域流量の変化(水収支や洪水流出量の変化など)を明らかにするには、20~30年以上50年近く観測を継続する必要があった。言い換えると、50年以上継続したことで森林植生が流域からの水流出に及ぼす様々な影響を抽出できようになった。当時は、植生変化が流出に及ぼす影響に対して、年々の降水量等その他の要因の変化が大きいことが、森林の効果を抽出することを困難にしていると考えられていた。一方で、試験流域設定時から堰堤の機能を維持するために行ってきた土砂排出の記録等から、はげ山に森林が回復するとすぐに土壌侵食量が大幅に減少し、続いて流域からの流出土砂量も減少すること、また、はげ山では土砂の移動形態が「表面流・表層侵食型」だったのが、100年程度経過し、森林が回復して表土が発達してくると「地中流・崩壊型」に変化する実態が捉えられた。
山腹植栽をすると森林は20年程度で回復し、植生遷移は数十年から数百年かけて進む。また、表土層の発達は数十年~数百年かかる。さらにこの100年は地域社会も大きく変化した。このような時間スケールの異なる事象が重なって流域の水と土砂の動態が時間とともに変化してきた結果が観測データに反映されている。今後は、数年~数十年の時間スケールで生じる気候変動の影響評価と予測を行うためにも重要なデータとなるだろう。