日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG43] 黒潮大蛇行

2023年5月21日(日) 09:00 〜 10:15 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:西川 はつみ(東京大学 大気海洋研究所)、平田 英隆(立正大学)、美山 透(国立研究開発法人海洋研究開発機構・アプリケーションラボ)、日下 彰(国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産資源研究所 )、座長:西川 はつみ(東京大学 大気海洋研究所)、平田 英隆(立正大学)、美山 透(国立研究開発法人海洋研究開発機構・アプリケーションラボ)、日下 彰(国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産資源研究所)


09:15 〜 09:30

[ACG43-02] 黒潮大蛇行に伴う海面水温偏差が遠隔海域の台風強度に与える影響:2019年台風20号の事例解析

*藤原 圭太1、川村 隆一2野中 正見3 (1.京都大学 防災研究所、2.九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門、3.国立研究開発法人海洋研究開発機構 アプリケーションラボ)

キーワード:台風、黒潮大蛇行

近年の研究により、北半球秋季(特に10月)に、日本の南海上を北上する台風に黒潮から蒸発する多量の水蒸気が流入することで、黒潮が台風強度に遠隔的な影響(黒潮の遠隔影響)を与えていることが見出されている(Fujiwara et al., 2020a; 2020b)。黒潮の遠隔影響を顕在化させる要因として、黒潮の近年の高温傾向(Fujiwara and Kawamura, 2021)や暖流上の暖水渦の存在(Fujiwara and Kawamura, 2022)が指摘されている。黒潮の遠隔影響を通じた、黒潮の海面水温(SST)変動と台風強度との関係に関する理解の促進は、日本近海における台風活動に関する有益な情報をもたらすことが期待される。

黒潮のSSTを大きく変動させる要因の一つとして、黒潮大蛇行が挙げられる。大蛇行発生時の黒潮のSST偏差は、紀伊半島の南の低温偏差と東海沖の高温偏差として特徴づけられる。そのSST偏差は、台風シーズンである7–10月の中では、10月に最も明瞭となる。黒潮の遠隔影響は10月の台風に対して効率的に作用するため、黒潮大蛇行に伴う局所的なSST変動が秋台風の発達に遠隔的な影響を与えていることが予想される。

そこで、本研究は、黒潮大蛇行により形成されるSSTの低温・高温偏差が秋台風にどのような影響を与えるのかについて調査した。水平解像度2 kmの雲解像領域気象モデルを用いて、2019年台風20号の再現実験(CTL run)と黒潮大蛇行に関連するSST偏差を取り除く複数の感度実験を実施した。SST改変実験では、東海沖の高温偏差のみを取り除いたNo warm run(NW run)、紀伊半島沖の低温偏差のみを取り除いたNo cool run(NC run)、高温・低温偏差の両方を取り除いたNo warm and cool run(NWC run)を実施した。

台風20号の最盛期には、日本付近を東進する移動性高気圧と北進する台風との間に形成された下層北東風が、黒潮、特に東海沖の高温SST偏差域の海面蒸発を強めていた。NW runにおける東海沖の海面蒸発は、CTL runに対して約25%抑制された。海面蒸発の減少に対応して、東海沖直上の対流圏下層の水蒸気量も、CTL runと較べて減少していた。前方流跡線解析から、NW runでみられる東海沖の相対的な乾燥域が、下層北東風に沿って日本南海上の台風へと流入する様子が確認された。その結果、NW runの最盛期における台風の中心気圧は、CTL runに対して約5 hPaほど高い値を示した。反対に、NC runでは、低温偏差を取り除いたことで海面蒸発が活発となり、紀伊半島の南の大気境界層内の水蒸気量や台風への水蒸気流入量が増加した。その結果、最盛期の台風の中心気圧は、CTL runよりも約1 hPaほど低い値を示した。NWC runから得られた台風強度や黒潮からの水蒸気輸送の変化は、NW runのものに類似していた。NWC runにおいて紀伊半島沖の低温偏差の影響があまりみられなかった原因として、2019年10月の黒潮大蛇行に伴うSST偏差は東海沖の高温偏差が非常に顕著であったためであると考えられる。

本研究は、黒潮大蛇行によって生じるSST変動が黒潮から遠く離れた台風の発達に影響を与えるポテンシャルを持っていることを明らかにした。一方で、黒潮大蛇行に伴うSST変動は年によって大きく異なるため、台風に対する黒潮大蛇行の遠隔影響の出方は大蛇行イベントごとに異なる可能性がある。そのため、黒潮大蛇行と台風との関係をより詳らかにするために、事例数を増やすなどの更なる研究・解析を実施する必要がある。