日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG45] 海洋表層-大気間の生物地球化学

2023年5月21日(日) 10:45 〜 12:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:亀山 宗彦(北海道大学)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)、野口 真希(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球表層システム研究センター)、小杉 如央(気象研究所)、座長:亀山 宗彦(北海道大学)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)

10:45 〜 11:00

[ACG45-07] 黒潮大蛇行北側に生じた冷水渦内における海面pCO2の季節変動

*小杉 如央1石井 雅男1 (1.気象研究所)

キーワード:黒潮大蛇行、二酸化炭素、海洋酸性化

1.緒言
2017年8月に発生した黒潮大蛇行は、2023年2月時点で観測史上最長の継続期間となっており、この間に黒潮大蛇行が気象・海面水位等に与える影響について多くの研究成果が報告されている。一方、黒潮大蛇行は漁業に与える影響も懸念事項であるため、生物・化学的側面からの研究も求められている。本研究では、黒潮大蛇行の北側に生じた冷水渦内における海面付近の二酸化炭素分圧 (pCO2) の季節変動について、黒潮域と比較してどのような特徴があるのか議論する。
2.データ
2017年12月から2022年3月に気象庁の海洋気象観測船「凌風丸」と「啓風丸」が紀伊半島南方沖から伊豆諸島にかけての北緯30-33度、東経135-140度内で観測したpCO2と、同時に観測された水温・塩分のデータを使用した。黒潮の勢力域の判定には表層水温を使用した。MOVE/MRI.COM (2021年以降はMOVE/MRI.COM-JPN) の旬別再解析データで水深200 mの水温が11°C未満の海域を「冷水渦域」、18°C以上の海域を「黒潮域」と定義した。本研究では長期的なpCO2の増加傾向は考慮せず、全ての年を対象として1-12月の月別平均pCO2と水温を冷水渦域と黒潮域について計算した。冷水渦域については4月と9月、黒潮域については4月に該当するデータがなかったため、前後の月の値を単純内挿した値を使用した。
3.結果
海面水温(図1a)は全ての月で冷水渦域が黒潮域よりも低かった。特に冬季は両海域の差が大きく、冷水渦域では黒潮域よりも約3°C海面水温が低かった。両海域のpCO2はともに夏に最大・冬に最小となる同様の季節変動を示し(図1b)、pCO2変動は水温由来のものが支配的であった。年平均のpCO2は冷水渦域で364.0 μatm、黒潮域で366.4 μatmであり、両者の間に顕著な差はみられかった。
4.考察
冷水渦域では水温の季節変動が大きいにもかかわらず、黒潮域と同様のpCO2季節変動を示した。この要因を定量的に説明するため、Takahashi et al. [2002] の方法を用いて、pCO2の変動を水温による熱的な変動 (Thermal pCO2) と、非熱的 (Non-thermal pCO2) に切り分け、以下の式で計算した。
Thermal pCO2 = pCO2am × exp{0.0423 × (T - Tam)}
Non-thermal pCO2 = pCO2 × exp{0.0423 × (Tam - T)}
ここで、T, pCO2はそれぞれ海面水温とpCO2の月平均値、TampCO2amは海面水温とpCO2の年平均値 (annual mean) を示す。季節変動幅を比較すると、冷水渦域では黒潮域よりThermal pCO2とNon-thermal pCO2の変動幅がともに1.4倍程度大きかった(図1c, d)。各季節についての変動を考察すると、冬は冷水渦域で黒潮域よりも水温が低いにもかかわらず、pCO2は同程度であったことから、全炭酸濃度が黒潮域よりも高くなっていたと考えられる。その後、春から夏にかけて冷水渦域ではNon-thermal pCO2の減少幅が黒潮域よりも大きくなっており、一次生産による全炭酸の消費が大きかったと推測される。冷水渦域では晩秋から冬にかけてのNon-thermal pCO2増加が大きく、冬季混合層の深化に伴って亜表層から大量の全炭酸を取り込む一方で、大量の栄養塩も表層に供給され、これが春季の一次生産を支えていたと考えられる。

図キャプション
月別の (a) 海面水温、(b) pCO2、(c) Thermal pCO2、(d) Non-thermal pCO2、橙色は黒潮域、青は冷水渦域の値。(a)、(b)は絶対値で、エラーバーは標準偏差。(c)、(d)はそれぞれ年平均からの偏差。