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[ACG45-P02] 海洋からの大気反応性窒素の放出生成における海洋窒素固定プロセスの役割
キーワード:大気反応性窒素、有機態窒素、海洋大気エアロゾル、窒素固定、大気―海洋間地球化学
海洋表層から放出される大気反応性窒素は大気光化学反応場や粒子生成、その後の雲の生成等を通して海洋上の大気質・気候に影響を及ぼす重要な因子の一つである。反応性窒素のうち、有機成分である水溶性有機態窒素(WSON)や無機成分のアンモニアやアンモニウム塩は粒子生成や粒子の水溶性特性、酸性度、光吸収特性などに影響を及ぼす。しかしながら海洋大気において、陸域起源以外の反応性窒素の放出源と生成過程に関する理解は著しく不足している。これまで発表者らによる北太平洋亜熱帯域での船上観測から、海洋表層の窒素固定生物から滲出・生成された反応性窒素(主に溶存有機態窒素とアンモニア)が大気WSONエアロゾルの生成に寄与していることが示唆されている(Dobashi et al., 2023)。海洋窒素固定生物の中でも、シアノバクテリアの一種であるTrichodesmium属は、熱帯・亜熱帯を中心に広く分布していることが知られており、全海洋における海洋窒素固定量の最大50%程度寄与しているとされている。しかし海洋窒素固定による反応性窒素の大気への放出・生成を室内実験により検証した研究は皆無である。本研究では、海洋の窒素固定生物による大気反応性窒素の生成への影響を明らかにすることを目的とし、窒素固定生物として室内培養実験で広く扱われているTrichodesmium erythraeum IMS101株(以下、Trichodesmium)を用いた人工海水培養・大気捕集実験を行った。
培養は25℃に制御された恒温槽内に設置したアクリル水槽内でYBC-Ⅱ人工海水培地を使って行った。大気中の粒子相(PM2.5)・気相成分をNILUインパクターにより3段階に分け、海水試料とともに約24時間ごとに捕集した。大気試料中の水溶性全窒素(WSTN)濃度と水溶性有機炭素(WSOC)濃度、および海水試料中の全溶存態窒素(TDN)濃度と溶存態有機炭素(DOC)濃度は全窒素測定ユニット付き全有機炭素計で測定した。大気・海水試料中の無機態窒素(IN)濃度はイオンクロマトグラフを用いて測定し、WSTNとINの濃度の差をWSON濃度と定義した。また、窒素固定ラン藻の現存量変化を把握するために、蛍光光度計を用いた生体内クロロフィルa蛍光強度と超高速液体クロマトグラフィーを用いたクロロフィルa濃度の測定を行った。さらに、フローサイトメーターを用いて培地中の従属栄養細菌濃度の測定を行った。
約2か月の培養実験期間中、対数増殖期において、クロロフィルa濃度の増大に伴って海水中の存全窒素および溶存態炭素濃度が増大を示したことから、Trichodesmiumの対数増殖期に窒素固定により溶存全窒素および溶存態炭素が海水中に放出されたことが示唆された。培養実験の全期間を通し、粒子相・気相ともにアンモニウム塩/アンモニアが反応性窒素の主要な組成(平均約70%)であり、その次にWSON(平均約20%)が多かった。さらに減衰期と死滅期において、大気放出されたアンモニアと気相の塩基性WSONの濃度が顕著に増大した。この結果は、海水中で増加したバクテリアによる溶存全窒素や死滅細胞の分解や光化学反応により、低分子で揮発性の高い塩基性の溶存窒素が海水から大気に移行したことを示唆した。全体として酸性WSONの大気放出はTrichodesmiumの対数増殖期と定常期において顕著であり、減衰期と死滅期においては塩基性の反応性窒素の大気放出が顕著であった。これらの結果から、Trichodesmiumの成長・死滅に伴うWSONとアンモニアの海水から大気への放出を初めて実証し、海水から大気への反応性窒素放出フラックスについても評価を行った。
培養は25℃に制御された恒温槽内に設置したアクリル水槽内でYBC-Ⅱ人工海水培地を使って行った。大気中の粒子相(PM2.5)・気相成分をNILUインパクターにより3段階に分け、海水試料とともに約24時間ごとに捕集した。大気試料中の水溶性全窒素(WSTN)濃度と水溶性有機炭素(WSOC)濃度、および海水試料中の全溶存態窒素(TDN)濃度と溶存態有機炭素(DOC)濃度は全窒素測定ユニット付き全有機炭素計で測定した。大気・海水試料中の無機態窒素(IN)濃度はイオンクロマトグラフを用いて測定し、WSTNとINの濃度の差をWSON濃度と定義した。また、窒素固定ラン藻の現存量変化を把握するために、蛍光光度計を用いた生体内クロロフィルa蛍光強度と超高速液体クロマトグラフィーを用いたクロロフィルa濃度の測定を行った。さらに、フローサイトメーターを用いて培地中の従属栄養細菌濃度の測定を行った。
約2か月の培養実験期間中、対数増殖期において、クロロフィルa濃度の増大に伴って海水中の存全窒素および溶存態炭素濃度が増大を示したことから、Trichodesmiumの対数増殖期に窒素固定により溶存全窒素および溶存態炭素が海水中に放出されたことが示唆された。培養実験の全期間を通し、粒子相・気相ともにアンモニウム塩/アンモニアが反応性窒素の主要な組成(平均約70%)であり、その次にWSON(平均約20%)が多かった。さらに減衰期と死滅期において、大気放出されたアンモニアと気相の塩基性WSONの濃度が顕著に増大した。この結果は、海水中で増加したバクテリアによる溶存全窒素や死滅細胞の分解や光化学反応により、低分子で揮発性の高い塩基性の溶存窒素が海水から大気に移行したことを示唆した。全体として酸性WSONの大気放出はTrichodesmiumの対数増殖期と定常期において顕著であり、減衰期と死滅期においては塩基性の反応性窒素の大気放出が顕著であった。これらの結果から、Trichodesmiumの成長・死滅に伴うWSONとアンモニアの海水から大気への放出を初めて実証し、海水から大気への反応性窒素放出フラックスについても評価を行った。