13:45 〜 14:00
[ACG46-06] 地表面に吸収される放射量に制御される表面温度変化による表面熱収支の応答
キーワード:放射、表面熱収支、北極域、グリーンランド
全球的な温暖化が確認されている近年の気候下において,標高の低いグリーンランド沿岸の氷帽の質量損失はグリーンランド氷床よりも著しく大きい。また,氷河氷床の平行線付近は雪氷面の状態変化が激しいと考えられるため,そこでの気象条件と地表面質量収支の長期的な変動を定量的に検証することは重要である。そこで本研究では,北西グリーンランドのQaanaaq氷帽の平衡線付近に位置していると推定されているSIGMA-Bサイト(77.518°N,69.062°W,標高944 m)において2012年以降継続して取得されている地上気象観測データを用いて,雪氷表面の状態と同地点における涵養・消耗過程を把握するために,表面熱収支と表面融解速度の経年変化を調査した。
表面熱収支解析では,式(1)を用いて,正味短波放射(SWnet=(1−α)SWd),正味長波放射(LWnet=εLWd−εσTs4),顕熱フラックス(H),潜熱フラックス(ιE),降雨伝達熱(QR),雪中伝導熱(QS),および,表面の加熱,冷却,融解に使われるエネルギー(Qnet)量をそれぞれ計算した。また,雪面で吸収される放射量(Rabs)は,SWnetと雪で吸収される下向き長波放射(εLWd)の合計として定義した。本研究では,これらの熱フラックスに対して,雪氷面へ入る熱輸送の方向を正とした。
Qnet=(1−α)SWd+εLWd−εσTs4+H+ιE+QR+QS . (1)
熱収支解析によって2018/19年には最も多くの表面融解(1083 mm w.e.)が起こったことが分かった。同年の春(3-5月)と夏(6-8月)のRabs,雪面温度(Ts)の平均値は他の年の同じ季節に比べて有意に大きな値(Rabs:春;271.4 W m−2,夏;349.1 W m−2,Ts:春;−16.4°C,夏;−0.9°C)であり,2018/19年のこの期間においてRabsによる加熱が卓越し,その結果Tsが上昇していたことが分かった。同年の同季節の平均Qnetはそれぞれ3.4 W m−2 (春),42.9 W m−2 (夏)であった。この春のQnetは観測期間中最も小さい値であり,逆に夏のQnetは最も大きな値であった。
2018/19年の春にRabsによる雪面加熱が卓越したにもかかわらず,同期間のQnetが小さくなる,つまり,雪面熱収支としての合計の加熱量が少なくなったのは,Rabsによる加熱によってTsが上昇した結果,雪面からの長波放射,顕熱・潜熱フラックス,雪中伝導熱による熱損失が増加したためであると考えられる。一方,Tsが0°C付近であると考えられる夏には,Qnetは大きな値を示している。これはつまり,雪面熱収支に直接的に影響を与えるSWnetとɛLWd(強制項)によって雪面加熱が起こった場合に,強制項による加熱/冷却の結果として変化するTsに依存するεσTs4,H,ιE,および,QS(受動項)の増減は,Tsが負であるか0°C付近であるかに依存する可能性を示唆出来る。つまり,Tsが低い春には,Rabsの加熱によってTsが上昇した結果,受動項である熱要素による熱損失が大きくなるため,Qnetの増加量は減少する。一方,Tsが0°C付近になる夏には,Rabsによって起こる加熱に起因するTsの増加量が少ないため,受動項による熱損失が少なく,結果として,Qnetは増加したのではないか,と考察できる。
表面熱収支解析では,式(1)を用いて,正味短波放射(SWnet=(1−α)SWd),正味長波放射(LWnet=εLWd−εσTs4),顕熱フラックス(H),潜熱フラックス(ιE),降雨伝達熱(QR),雪中伝導熱(QS),および,表面の加熱,冷却,融解に使われるエネルギー(Qnet)量をそれぞれ計算した。また,雪面で吸収される放射量(Rabs)は,SWnetと雪で吸収される下向き長波放射(εLWd)の合計として定義した。本研究では,これらの熱フラックスに対して,雪氷面へ入る熱輸送の方向を正とした。
Qnet=(1−α)SWd+εLWd−εσTs4+H+ιE+QR+QS . (1)
熱収支解析によって2018/19年には最も多くの表面融解(1083 mm w.e.)が起こったことが分かった。同年の春(3-5月)と夏(6-8月)のRabs,雪面温度(Ts)の平均値は他の年の同じ季節に比べて有意に大きな値(Rabs:春;271.4 W m−2,夏;349.1 W m−2,Ts:春;−16.4°C,夏;−0.9°C)であり,2018/19年のこの期間においてRabsによる加熱が卓越し,その結果Tsが上昇していたことが分かった。同年の同季節の平均Qnetはそれぞれ3.4 W m−2 (春),42.9 W m−2 (夏)であった。この春のQnetは観測期間中最も小さい値であり,逆に夏のQnetは最も大きな値であった。
2018/19年の春にRabsによる雪面加熱が卓越したにもかかわらず,同期間のQnetが小さくなる,つまり,雪面熱収支としての合計の加熱量が少なくなったのは,Rabsによる加熱によってTsが上昇した結果,雪面からの長波放射,顕熱・潜熱フラックス,雪中伝導熱による熱損失が増加したためであると考えられる。一方,Tsが0°C付近であると考えられる夏には,Qnetは大きな値を示している。これはつまり,雪面熱収支に直接的に影響を与えるSWnetとɛLWd(強制項)によって雪面加熱が起こった場合に,強制項による加熱/冷却の結果として変化するTsに依存するεσTs4,H,ιE,および,QS(受動項)の増減は,Tsが負であるか0°C付近であるかに依存する可能性を示唆出来る。つまり,Tsが低い春には,Rabsの加熱によってTsが上昇した結果,受動項である熱要素による熱損失が大きくなるため,Qnetの増加量は減少する。一方,Tsが0°C付近になる夏には,Rabsによって起こる加熱に起因するTsの増加量が少ないため,受動項による熱損失が少なく,結果として,Qnetは増加したのではないか,と考察できる。