日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG46] 北極域の科学

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (9) (オンラインポスター)

コンビーナ:両角 友喜(国立環境研究所)、島田 利元(宇宙航空研究開発機構)、堀 正岳(東京大学大気海洋研究所)、川上 達也(北海道大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[ACG46-P11] 干渉SARによる北東シベリア・ラプテフ海沿岸の地表面変位の検出

*阿部 隆博1飯島 慈裕1 (1.三重大学大学院生物資源学研究科)


キーワード:永久凍土、ツンドラ、北東シベリア、干渉合成開口レーダー、ALOS-2、Sentinel-1

近年の気候変動は永久凍土融解に大きな影響を及ぼしている。北極圏の連続的永久凍土帯における地温は過去数十年の間に上昇しており(Biskaborn et al., 2019)、永久凍土の融解による水文・景観の変化や地域住民の生活への影響が懸念されている。特に高緯度域では、1990 年代以降、10年あたりの永久凍土の温度上昇率が最大で約 1 ℃に達し、活動層厚の増加が観測されている地域もある。しかし、シベリア北東部の広大な遠隔地をカバーする観測研究は極めて不足しており、広い地域スケールでのモデリング研究とリンクできるような観測結果が必要不可欠である。
干渉合成開口レーダー(干渉SAR, InSAR)は、異なる時期のSARデータのマイクロ波位相差を計算することで地表面の変動を高精度に計測できる手法であり、地殻変動や氷河流動などの地表面変位を伴う地球物理学現象の解明に利用されている。干渉SARの永久凍土監視への適用例もこの10年程度で増加しており、凍土動態を理解する新たなツールの1つになりつつある。そこで本研究では、宇宙航空研究開発機構の「だいち2号(ALOS-2)」のストリップマップモード(解像度10 m)のL-band SARデータ(2015–2022)と欧州宇宙機関のSentinel-1のInterferometric Wide Swath mode(解像度5×20 m)のC-band SARデータ(2017–2021)を用いて、ナイバ(N70.85°, E130.74°)周辺の凍土凍結・融解過程に関連する地表面の変位量を調べた。得られたALOS-2の干渉画像に対して、干渉SAR時系列解析(Berardino et al., 2002; Schmidt and Bürgmann, 2003; Biggs et al., 2007; Yanagiya and Furuya, 2020; Abe et al., 2022)を適用し、解析期間における地表面の累積沈降量を計算した。また、Sentinel-1の干渉画像を用いて、地表面の季節変位を算出し、ALOS-2から計算した累積沈降量の分布と比較した。
ALOS-2データの解析の結果、ナイバの集落付近だけでなく、海岸線沿いのいくつかの地域で永久凍土融解に関連すると思われる経年的な視線方向の伸長(=沈下)が検出された。また、2017年夏に発生したツンドラ火災の現場でも10 cmを超える明瞭な沈下が観測された。Sentinel-1干渉画像からは、数 cm 程度の夏季の季節的な視線方向の伸長(沈降)と冬季の短縮(隆起)が検出された。季節的な変位の大きさは年によって異なり、気温や夏の降水量と関係があると考えられる。また、この地域にはローセンターとハイセンターのポリゴンが両方分布しており、その発達と地表面変位、地形との関係について発表する予定である。