日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW19] 水循環・水環境

2023年5月24日(水) 09:00 〜 10:15 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:榊原 厚一(信州大学理学部理学科)、岩上 翔(国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、座長:榊原 厚一(信州大学理学部理学科)、飯田 真一(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所森林研究部門森林防災研究領域水保全研究室)、岩上 翔(国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)

09:00 〜 09:15

[AHW19-01] 水同位体比形成における水-岩石相互作用のモデル化と大深度水循環

★招待講演

*安達 郁哉1山中 勤2 (1.筑波大学生命地球科学研究群、2.筑波大学生命環境系)


キーワード:水同位体、水-岩石相互作用、大深度水循環、地圏水、温泉水、スラブ脱水流体

水の水素と酸素の安定同位体比は、地表の水循環の追跡に有効なツールとなる。温泉や鉱泉(自噴井/揚水井を含む)の同位体組成は、地球深部における水循環を理解する上で重要な手がかりとなる可能性がある。しかし、その同位体組成は、天水の混合によって更新されるため、ほとんど知られていない。本論文では、簡易で汎用性の高いモデルによって地圏に含まれる水の同位体進化軌跡を示し、2枚の海洋プレートが二重に沈み込む中部日本における温泉水のオリジナル(天水と混合する前)な同位体組成を再構築する。このモデルでは、間隙水、粘土鉱物の層間水、含水鉱物の構造水(OH基)、鉱物結晶を構成するO原子の4つのプール間の水素/酸素同位体の交換を記述している。同位体平衡の程度は温度に依存する速度定数によって制御される。条件の不確実性を考慮するため、取りうる範囲および確率密度関数を仮定してランダムに選択した値でモンテカルロシミュレーションを実施した。本研究では、海洋起源の水を含むスラブが沈み込んでいる場合についてモデルを適用したが、沈み込んでいない場合や天水起源の場合にも適用することが可能である。予測される進化の軌跡は多様であるが、不確実性領域を持つ単一の曲線(ここでは「海洋起源地圏水曲線」(ocean-originated lithospheric water curve ; OLWC)と呼ぶ)で近似することが可能である。OLWCはδ2H = 60 / (δ18O − δ18Ofin) + δ2Hoff で表され、δ18Ofin は最終進化段階のδ18O であり、主に岩石のδ18O と平衡同位体分別係数に依存する。また、δ2Hoffはδ2Hの補正値であり、主に鉱物組成と陸源性粘土の割合の変動、ガスハイドレートの分解・形成が反映される。δ18Ofin =11±1、δ2Hoff =0±10とすると、収集した海底下間隙水データの94%(n=217)がOLWCで表現可能である。海底泥火山間隙水では82%(n=204)に減少するが、異常値は現代の地中海海水との混合やガスハイドレート生成の影響を強く受けていることによる。
また、調査を実施した温泉水について、天水と地圏水(非天水)の混合比(相対寄与率)を推定した。天水起源地下水のアイソスケイプに基づき、各温泉に対応する天水起源端成分の同位体組成(δMW)を与え、地圏水の同位体組成(δLW)を天水と温泉水の混合線により再構築した。混合解析の結果、調査した各温泉水の19~95%は地圏水が占めていることが示された。また、再構築されたδ18OとCl, Li濃度の非線形関係から、地圏水は混合物ではなく、海水からマグマ水への進化の軌跡にあるという仮説が正当化された。プレート沈み込み環境下での再現結果とモデル予測との比較から、進化を続ける地圏水の多くは沈み込むフィリピン海(PHS)スラブから、一部は太平洋(PAC)から放出されており、また特定の2地域(すなわち新潟と群馬南西部)で見られる進化初期段階の水は、第三紀火山岩によって加熱された浅層海洋堆積物に由来することが示唆される。温泉水の同位体組成を長期的にモニタリングすることで、地球内部の変化を検知し、特異的な水資源である温泉水を適切に管理することに役立つと期待される。