日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW19] 水循環・水環境

2023年5月24日(水) 09:00 〜 10:15 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:榊原 厚一(信州大学理学部理学科)、岩上 翔(国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、座長:榊原 厚一(信州大学理学部理学科)、飯田 真一(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所森林研究部門森林防災研究領域水保全研究室)、岩上 翔(国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)

09:30 〜 09:45

[AHW19-03] 浅く小さな湖沼の木場潟における湖水の栄養塩・鉄濃度に及ぼす降雨の影響

*長尾 誠也1松中 哲也1、Gankhurel Baasansuren1福士 圭介1杉本 亮2落合 伸也1 (1.金沢大学環日本海域環境研究センター、2.福井県立大学海洋生物資源学部)

キーワード:湖沼環境、降雨の湖沼水質影響、生物生産

はじめに 湖沼の水環境は、地域の生物多様性の拠点として機能し、農業や上水の水資源利用、ヒトの憩いの環境としての利用等、人間活動において重要な役割を担っている。現在進行している地球温暖化は、湖沼の水位・水質・生物生産・流域環境等に影響を及ぼしている。水深の浅く面積が小さい湖沼では、地球温暖化による水温上昇や降雨の強度・集中豪雨の頻度等による影響が敏感に反映されている。そのため、現状の湖沼水環境を理解することは、地球温暖化に伴い発生する環境問題の対策を講じるために必要不可欠である。本研究では、石川県小松市に位置する浅く面積が小さな木場潟を対象に2022年夏季に降雨の影響を連続採水器を用いた1時間間隔の時間分解能での調査を実施した。その結果、降水量と降水パターンが木場潟の水質変動に関与することが明からとなった。

2.試料と方法
石川県小松市に位置する木場潟は、面積1.09km2、平均水深2.2m、流域面積37.4km2の小さな湖であり、湖周辺には主に水田が分布している。本研究では、湖心での水質計による計測(多項目水質計TOA-DKK WQC-24)とともに、水中ポンプによる鉛直採水を行った。また、降雨による木場潟湖水の栄養塩・鉄濃度の変動を経時的に把握するため、カヌー桟橋に近い筏の上に連続採水器(ISCO社6712型water sampler)を設置し、降雨開始時から1時間毎に1Lの湖水採水を23時間採水した。降雨後の連続採水器の試料回収時には湖水調査も行った。栄養塩の測定はオートアナライザー(ブラン・ルーベ社Quattro 5ch T-N)、主要陽イオン組成と鉄濃度はICP-OES(Varian社710-ES)により測定した。水の同位体比は波長スキャン分光法(Picarro L2120-i)で測定した。

3.結果と議論
観測期間中、降水量44.5 mm(8月16日-17日)と53.0 mm(9月19日-20日)、さらに21.0 mm(10月17日-18日)の降雨に対して連続採水を実施した。それぞれの観測時の主要陽イオン濃度変動は観測毎に異なっていた。Na+イオン濃度を例に取ると、その変動幅は、8月の連続採水では9.1-9.7 ppm、9月は9.3-13.0 ppm、10月は9.9-10.7 ppmと9月の連続観測以外は顕著な濃度変動は確認されなかった(図1)。木場潟湖水のδD値は、8月の-57.8‰から-55.2‰に比べて9月では-61.0‰から-45.5‰と変動幅が大きく、降水の影響が異なっていることが分かる。9月の連続観測の結果では、最大降水量から2時間後と7時間後に硝酸イオン、リン酸イオン、鉄濃度の増加が観測された(図2)。時間帯により2つの移行経路、あるいはソースが異なる事が考えられる。8月の観測では観測開始直前と3時間後に時間降水量18.5mmと21.0mmの降雨が観測されたが、9月の観測では10時間連続的な降雨(最大降水量11.5mmと12.5mm)、10月では観測直前に8.5mmの降雨が観測されていた。この結果は、浅く小さな湖沼の木場潟では、50 mm以上の降水と連続的な降水パターンが湖沼の水質変動に関与することを示唆している。

図1 8月16日-17日、9月19日-20日、および10月17日-18日に観測した湖水のNa+濃度の時系列変動

図2 9月19日から20日に実施した連続観測結果
降水量は気象庁アメダス小松観測所、水位(未確定データ)は国土交通省水文水質データより引用した。