日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW19] 水循環・水環境

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:榊原 厚一(信州大学理学部理学科)、岩上 翔(国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[AHW19-P03] 水質・同位体比トレーサーから推察される上高地・高山山麓部における湧水の流出過程

*金井 杏樹1榊原 厚一2鈴木 啓助2 (1.信州大学大学院総合理工学研究科、2.信州大学理学部 )


キーワード:山岳域、山体地下水、降雨流出過程、安定同位体比

急峻な地形に特徴づけられる我が国において,多量の降水と高い動水勾配を有する山岳域における降雨流出機構を理解することは,防災・水資源管理において極めて重要である.
また近年の研究では山体が水貯留機能を有することが明らかにされており,山体を含めた水流出機構の解明が必要不可欠である.そこで本研究は,山岳域・上高地の山体湧水と氾濫原湧水を対象とし,高山山麓部に位置する湧水の流出過程を明らかにすることを目的とした.現地で水温・湧水量を含む水文解析を実施し,また酸素・水素安定同位体比(δ18O, δD)を分析することで次のことが明らかになった.
 水温の時間変化について日平均気温と比較すると,気温に対応した季節的な変化を示した氾濫原湧水とは異なり,山体湧水は高強度降水時を除いて温度変化に乏しいことが分かった.また,流量の時間変化については,両湧水とも高強度降水時には大きく増大していたが,低強度降水時には山体湧水の流量は明瞭には変化しなかった.両湧水と本流河川である梓川のδダイアグラムを比較すると,氾濫原湧水と梓川のプロット範囲は大まかに重なっていたのに対し,山体湧水は他の2地点とは異なる範囲にプロットされていた.また,多量の降雨がみられる夏季(6-8月)において湧水間のδ値に有意な差がみられ,山体湧水の方が高い傾向にあることが分かった.このδ値の差は,降水量と30日前までの先行降雨(API)が多い時に顕著にみられた.
 水温の観測結果から,山体内に滞留時間の長い地下水が豊富に貯留されており,この山体地下水が山体湧水から流出していると考えられる.また,山体湧水では特に高強度降水時において,氾濫原湧水や本流河川とは同位体的に異なる水が多量に流出していることから,山体地下水が高強度降水に押し出される形で流出しているのではないかと考察される.山岳域では,山体地下水の安定的な谷底部への流出によって山岳河川や氾濫原湧水が形成されていると考えられ,山体地下水が供給源として山岳域水循環を広く支配している可能性がある.