日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW23] 同位体水文学2023

2023年5月24日(水) 13:45 〜 15:00 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、座長:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、森川 徳敏(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

14:25 〜 14:40

[AHW23-03] 軽元素同位体組成と岩石⁻水反応特性から推察される非火山性温泉の強酸性水質の成因

*柳澤 良亮1榊原 厚一1角野 浩史2、高橋 康1福島 菜奈絵3、山本 淳一4江島 輝美1 (1.信州大学理学部理学科、2.東京大学先端科学技術研究センター、3.東京大学大学院総合文化研究科、4.長野県諏訪清陵高等学校)


キーワード:ヘリウム同位体比、炭素同位体比、酸素・水素同位体比 、溶出試験、水-岩石相互作用、強酸性水

自然下での酸性水の流出は水資源への重金属イオンの負荷などの要因となることから,その成因を理解することが重要である.酸性水の流出を対象とした研究は多数存在し,火山の熱水系や鉱物-水相互作用の関与が指摘されてきた(佐藤ほか,2010).pHが低い長野県下諏訪町の毒沢鉱泉を対象とした先行研究では溶存硫酸イオンの硫黄の同位体比から水質形成に黄鉄鉱が関与していることが示唆された(村松ほか,2014).しかし,ひとつの元素の同位体比情報のみで火山活動の影響の有無を評価するのは不十分であり,酸性水の成因やその流出過程は未解明な部分が多い.また,酸性水の生成の要因となる岩石および鉱物の特定とそれらの水との相互作用についても十分に明らかにされていない.このことから本研究では,毒沢鉱泉源流域から周辺の温泉を研究対象とし,1) 各種同位体組成から地域全体の火山活動の関与を議論すること,2) 毒沢鉱泉周辺の岩石・鉱物の記載により酸性水の要因となる鉱物を特定すること,3) 岩石からの元素溶脱特性を取得することで強酸性湧水が流出する要因を明らかにすることを目的とした.
 地質踏査及び水試料・岩石試料の採取を実施した.採取した水試料は,主要イオン濃度,酸素・水素(δ18O, δ2H),炭素(δ13C),希ガス(4He/20Ne, 3He /4He)同位体比分析を行った.さらに,岩石の実体顕微鏡・偏光顕微鏡・粉末X線回折装置(XRD)を用いた鉱物同定および実験室における水・岩石反応実験を実施することで以下のことが明らかとなった.
毒沢鉱泉とその周辺の温泉の水の安定同位体比データは諏訪湖地域の降水データの回帰直線に近い組成を有していた. 4He/20Neから大気混合が50 %以下と判断した温泉水のヘリウム同位体比と炭素同位体比は次の通りであった.ヘリウム同位体比R/RAは,2.8~3.7であり,δ13Cは-24.42~-63.18‰であった.これらのことより,毒沢鉱泉を含む温泉水は,天水起源であり,火山流体の直接関与は小さいと考えられた.したがって,諏訪地域において,地下水へ涵養された天水への火山活動の影響は小さく,火山流体の直接的影響以外に強酸性をもたらす要因があるといえる.
 毒沢鉱泉周辺の岩石を用いた水・岩石反応実験において,急激な実験溶液のpHの低下とORPの上昇を観測した.また,pHの低下に呼応するように,溶液のECは上昇した.さらに,実験後の溶液の溶存イオン濃度では,硫酸イオンが最も高く,水質特性は毒沢鉱泉の水質と似ていた.鉱物同定により,岩石中の黄鉄鉱量や粘土鉱物量が多くなるにつれて,溶液のpHの低下幅がより大きくなったため,これらの鉱物が反応に関与している可能性が高い.以上より毒沢鉱泉は,天水起源の水が地中もしくは地下表層部において,岩石中の黄鉄鉱や粘土鉱物と反応することによって強酸性水が生成すると考察した.


2021 年以前に採取した降水試料を除く一部の水試料の酸素・水素安定同位体比分析は,神奈川県温泉地学研究所 板寺一洋 氏に分析していただいた.なお,本研究は信州大学理学部公募型アドバンス実習の研究経費を利用した.