日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW23] 同位体水文学2023

2023年5月25日(木) 09:00 〜 10:30 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、大沢 信二(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設(別府))、座長:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)、中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)

09:55 〜 10:10

[AHW23-08] 東京都品川区の浅層地下水の硫酸イオン濃度とその起源について

*伊東 優希1安原 正也2李 盛源2浅井 和由3 (1.立正大学大学院 地球環境科学研究科、2.立正大学 地球環境科学部 、3.株式会社 地球科学研究所)

キーワード:都市、浅層地下水、硫酸イオン、下水漏水、硫酸還元反応、混合解析

高度経済成長期,都市の地下水を過剰揚水したことで激しい地盤沈下が生じたことを契機に,現在に至るまで東京都をはじめとする我が国の大都市は地下水揚水を厳しく制限している(守田,2012)。しかし,1995年の阪神・淡路大震災以降,災害・緊急用水源として都市の地下水,特に浅層地下水を利用することに関心が高まっている(安原,1997;黒田ほか,2008;安原,2008)。さらに都市のヒートアイランド現象の緩和や親水環境の創生・保全に地下水を利用することも注目されている(杉江ほか,2005)。しかし,地下水の利用の際に必要な地下水の水質や利用可能量などの実態については不明な点が多い。そこで,東京都品川区の北品川・南品川地区の浅層地下水を対象に,都市の地下水の水質やその季節変化の実態把握,水質形成プロセスおよび都市の地下水の起源[李 盛源1] を解明するための研究を実施している。本発表では,都市の地下水中に含まれるSO42-に着目し,その起源や濃度変化プロセスについての考察を行った。
 2021年8月(豊水期)と2022年2月(渇水期)において,北品川地区の8本,南品川地区の3本(いずれも井戸深度は12 m以浅)からの浅層地下水を対象とし,現地調査・採水を行った。各種水質とδ34Sの分析結果,SO42-濃度は8月:10.7 mg/L(地点N2)~40.4 mg/L(地点N9),2月:10.6 mg/L(地点N2)~62.6 mg/L(地点N4),NO3-濃度は8月:不検出(地点N2)~22.4 mg/L(地点N6),[李 盛源2] 2月:不検出(地点N2)~22.4 mg/L(地点N6)[李 盛源3] ,Cl濃度は8月:6.9 mg/L(地点S11)~38.3 mg/L(地点N2),2月:5.6 mg/L(地点S11)~39.2 mg/L(地点N2),δ34Sは,8月:-4.9 ‰(地点N9)~23.8 ‰(地点N2),2月:-5.9 ‰(地点N4)~21.2 ‰(地点N2)と,地点・季節ごとに各種水質とδ34Sが著しく異なっていた。これは各地点における降水浸透水・水道漏水・下水漏水の寄与率の違いが起因していると考えられる。また,δ34Sは北品川地区の地点N2で約20 ‰以上(2月,8月)と高かったため,硫酸還元反応の発生・進行に関する検討を行った。レイリー式に基づくSO42-濃度とδ34Sの関係より,地点N2では硫酸還元反応の発生・進行が著しいことが明らかとなった。以上から,本研究地域における地下水のSO42-は降水浸透水・水道漏水・下水漏水の寄与率の違いによってその濃度が決定づけられるが,硫酸還元反応の発生・進行により副次的に濃度が変化していくと考えられる。