10:45 〜 12:15
[AHW23-P01] 熱水の地球化学的観測による火山活動の評価
★招待講演
キーワード:火山活動評価、熱水、水素・酸素安定同位体比、Cl/SO4比、えびの高原硫黄山
マグマから脱ガスした揮発性成分はH2O, CO2, SO2, HCl, Heなど様々な成分で構成され, これらの一部は火山性流体(火山ガスや温泉水, 火口湖水など)として地表に放出される. 揮発性成分の脱ガスはマグマの粘性の変化や上昇, 噴火など様々な火山活動の駆動源であるため, 火山性流体の化学組成や安定同位体比を分析することで, 火山活動の盛衰を評価する上で有益な情報を得ることができる (例えば, 大場, 2022). 本発表では, 2018年に複数の噴火が発生した霧島火山群北部に位置するえびの高原(硫黄山)を例に, 熱水の化学・安定同位体組成分析による火山活動評価の取り組みを紹介する.
えびの高原(硫黄山)周辺は霧島火山群の中でも最も地熱活動が活発な地域であり, 群発地震, 温泉湧出, 噴気放出など様々な火山活動とその盛衰を観察することができる(鍵山ほか, 1979). 最近では, 少なくとも明治時代から活発だった噴気活動が1990年代後半から減衰して2007年頃に一旦消失したが(舟崎ほか, 2017), 2015年には噴気が再開し, これ以降, 周辺湧水の水温上昇や噴湯孔の出現, 硫黄山山頂付近での土砂噴出(2017年4月)や山頂・山麓での水蒸気噴火(2018年4月)など, 火山活動の著しい変化が観察されている.
本講演内容は, 硫黄山の山麓で噴火前から湧出していた温泉水(2016年から観測), 2017年の土砂噴出跡の熱水, および噴火後に火口跡に出現した湯だまりの熱水の分析結果に基づいている. 観測した温泉水・熱水は水温15~97℃, pH0.5~2.8で, SO4・Cl型ないしCl・SO4型の水質が多い. 水素・酸素安定同位体比は, 山麓温泉水のδD=-51‰およびδ18O=-7.9‰, 山頂の土砂噴出孔跡熱水のδD=-0.4‰およびδ18O=+10.1‰との間に幅広く分布する. これらの同位体比の特徴は, 温泉水や熱水が当該地域の天水(δD=-48±2‰, δ18O=-7.6±0.3‰; 井出ほか, 2016)とマグマ水(δD=-20±10‰, δ18O =+10±2‰; Giggenbach, 1992)との混合系にあることを疑わせるが, 熱水の多くはδD—δ18Oダイヤグラム上でδD/δ18Oの勾配およそ3.2程度を成して分布するほか, 特に重い同位体比を持つ火口跡熱水の中にはδD/δ18O=5程度の勾配を示すことから, 単純な天水―マグマ水混合だけで熱水の起源を説明することは困難である. δD/δ18Oの傾きを水の気液分離の際の同位体分別によるものとし, 同位体分別係数をHorita and Wesolowski (1994)によって見積もると, δD/δ18O=3.2は150-160℃程度で, δD/δ18O=5は100℃程度での気液分離に伴う同位体分別の比に近い. すなわち, 当該地域の温泉水や火口跡の熱水は, 大局的には天水起源の地下水とマグマ性ガスが混合し, これが160℃程度で気液分離した液相部分であり, 火口跡熱水の一部は沸点に近い温度の湯だまりでの蒸発によってD, 18Oを濃縮したものと考えられる.
一般に, 火山活動の活発化に伴って火山ガスの温度が上昇すると火山ガスに含まれるHClのSO2に対する比率(HCl/SO2)が増大することが知られており(例えば, Iwasaki et al, 1966), 火山活動の盛衰を知る指標の一つとして使われる(Hirabayashi et al., 1982). 一方, HClは水に易溶で, SO2は溶解・酸化されるとSO4を供給するため, 水中のCl/SO4比は火山ガスのHCl/SO2比の代用となると期待される. 発表者らの観測では2016年8月から観測を開始した硫黄山山麓の温泉水において, 2017年4月の土砂噴出, 2018年の噴火の前後で顕著なCl/SO4比の増減を捉えることができ, 火山活動の評価における熱水分析の有効性を示す好例となった. 硫黄山ではその後も地震活動や地殻変動などが観測されており, 本講演では熱水の化学組成・安定同位体比から見た最近の活動推移についても報告する.
本研究の一部には文部科学省次世代火山研究・人材育成総合プロジェクトによる研究費を使用しました.
えびの高原(硫黄山)周辺は霧島火山群の中でも最も地熱活動が活発な地域であり, 群発地震, 温泉湧出, 噴気放出など様々な火山活動とその盛衰を観察することができる(鍵山ほか, 1979). 最近では, 少なくとも明治時代から活発だった噴気活動が1990年代後半から減衰して2007年頃に一旦消失したが(舟崎ほか, 2017), 2015年には噴気が再開し, これ以降, 周辺湧水の水温上昇や噴湯孔の出現, 硫黄山山頂付近での土砂噴出(2017年4月)や山頂・山麓での水蒸気噴火(2018年4月)など, 火山活動の著しい変化が観察されている.
本講演内容は, 硫黄山の山麓で噴火前から湧出していた温泉水(2016年から観測), 2017年の土砂噴出跡の熱水, および噴火後に火口跡に出現した湯だまりの熱水の分析結果に基づいている. 観測した温泉水・熱水は水温15~97℃, pH0.5~2.8で, SO4・Cl型ないしCl・SO4型の水質が多い. 水素・酸素安定同位体比は, 山麓温泉水のδD=-51‰およびδ18O=-7.9‰, 山頂の土砂噴出孔跡熱水のδD=-0.4‰およびδ18O=+10.1‰との間に幅広く分布する. これらの同位体比の特徴は, 温泉水や熱水が当該地域の天水(δD=-48±2‰, δ18O=-7.6±0.3‰; 井出ほか, 2016)とマグマ水(δD=-20±10‰, δ18O =+10±2‰; Giggenbach, 1992)との混合系にあることを疑わせるが, 熱水の多くはδD—δ18Oダイヤグラム上でδD/δ18Oの勾配およそ3.2程度を成して分布するほか, 特に重い同位体比を持つ火口跡熱水の中にはδD/δ18O=5程度の勾配を示すことから, 単純な天水―マグマ水混合だけで熱水の起源を説明することは困難である. δD/δ18Oの傾きを水の気液分離の際の同位体分別によるものとし, 同位体分別係数をHorita and Wesolowski (1994)によって見積もると, δD/δ18O=3.2は150-160℃程度で, δD/δ18O=5は100℃程度での気液分離に伴う同位体分別の比に近い. すなわち, 当該地域の温泉水や火口跡の熱水は, 大局的には天水起源の地下水とマグマ性ガスが混合し, これが160℃程度で気液分離した液相部分であり, 火口跡熱水の一部は沸点に近い温度の湯だまりでの蒸発によってD, 18Oを濃縮したものと考えられる.
一般に, 火山活動の活発化に伴って火山ガスの温度が上昇すると火山ガスに含まれるHClのSO2に対する比率(HCl/SO2)が増大することが知られており(例えば, Iwasaki et al, 1966), 火山活動の盛衰を知る指標の一つとして使われる(Hirabayashi et al., 1982). 一方, HClは水に易溶で, SO2は溶解・酸化されるとSO4を供給するため, 水中のCl/SO4比は火山ガスのHCl/SO2比の代用となると期待される. 発表者らの観測では2016年8月から観測を開始した硫黄山山麓の温泉水において, 2017年4月の土砂噴出, 2018年の噴火の前後で顕著なCl/SO4比の増減を捉えることができ, 火山活動の評価における熱水分析の有効性を示す好例となった. 硫黄山ではその後も地震活動や地殻変動などが観測されており, 本講演では熱水の化学組成・安定同位体比から見た最近の活動推移についても報告する.
本研究の一部には文部科学省次世代火山研究・人材育成総合プロジェクトによる研究費を使用しました.