日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 都市域の水環境と地質

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (8) (オンラインポスター)

コンビーナ:林 武司(秋田大学教育文化学部)、宮越 昭暢(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[AHW24-P01] 首都圏の地下温度長期観測に認められた地下温暖化 -地下水開発地域における地下熱環境変化の支配要因

*宮越 昭暢1林 武司2濱元 栄起3八戸 昭一3 (1.国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門、2.秋田大学教育文化学部、3.埼玉県環境科学国際センター)

キーワード:地下温度、地下水流動、地下温暖化、地盤沈下・地下水位観測井、都市化、東京首都圏

筆者らは,都市域における長期の地下水利用や都市特有の熱環境,地球温暖化に伴う気候変動が地下環境に及ぼす長期的な影響を把握するため,首都圏に位置する東京都および埼玉県を対象として,地下温度の観測を継続的に実施している。これまでに,両都県に整備されている地盤沈下・地下水位観測井網(観測井)を活用して,2000年から現在まで地下温度プロファイルを繰り返し観測するとともに,2007年(埼玉県内4地点)および2012・2013年(東京都内6地点)から地下温度の高精度モニタリングを実施し,地下温度の連続的かつ微細な変化と,地域や深度による変化傾向の差異を調査してきた。本発表では,それらの観測結果と,観測結果から明らかとなってきた地下温暖化の傾向と特徴について報告する。
 筆者らの先行研究(宮越ほか,2010など)により,本地域の地下温度には明瞭な地域差が認められ,例えば高度に都市化された東京都心部では,郊外よりも相対的に高温であることが明らかとなっている。本研究では,2003~2005年と2013~2020年の調査により得られた地下温度分布の比較により,過去10~15年程度の間に地下浅部に広く温度上昇が生じていることが明らかとなった。また,地下温度の上昇量は郊外よりも都心で大きく,両地域の温度差が増加していることが明らかとなった。さらに,地下温度の上昇は時間の経過とともに,より深部でも確認され,地下温暖化が地下深部に向かって拡大していることが示された。
 地下温度のモニタリング結果から,これら地下温度の上昇は継続的に生じていることが確認され,温度上昇率は地域や深度により異なることが明らかとなった。例えば,埼玉県南東部や東京都東部の観測井では,観測期間中を通じて概ね一定した上昇傾向が確認され,深度30m程度の浅部で0.01~0.02℃/年程度の上昇率が推定された(宮越ほか,2021)。これらの観測井は沖積低地に位置する。沖積層は主にシルト~粘土質層からなり,地下水流動の影響が小さいため,浅部に観測された地下温暖化は主に地表面温度上昇の熱の伝導により形成されたと考えられた。
 一方,武蔵野台地(埼玉県三芳町周辺)や荒川扇状地(埼玉県熊谷市周辺)に位置する観測井では,深度30~50mの地下浅部において,低地と同様に継続的な上昇が確認されたが,温度上昇率は一様ではなく,時間変動が認められた。また,深度100m程度の深部でも有意な変化が認められ,武蔵野台地と荒川扇状地では,変動の周期や大きさ,変化が生じている深度が異なった。これら地下温度の時間変動は,気温や土壌温度の変化に特有の周期とは異なっており,地表面温度変化の影響のみで形成されたものではない。地下温度の局所的な変化は水理水頭分布の経年変化の大きい地域や低水頭部で生じており,地下水流動の変化が地下温度の長期変化の主要因の一つであると考えられた。さらに,両地域の地下温度変化の違いは,水理地質構造や地下水開発の影響を反映した両地域の地下水流動の変化の違いを反映していると考えられることから,各観測井の地下温度変化を地下地質構造や地下水流動と併せて解析することで,首都圏における地下温暖化の形成メカニズムを明らかにできると期待される。本研究の一部はJSPS科研費19K12364および22K12410,22K05012の助成を受けた。本研究は,産業技術総合研究所・秋田大学・埼玉県による共同研究の一環として実施した。