日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 都市域の水環境と地質

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (8) (オンラインポスター)

コンビーナ:林 武司(秋田大学教育文化学部)、宮越 昭暢(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[AHW24-P08] 硫化鉄鉱体におけるガルバニック相互作用と陽イオンの置換による酸性水の発生と重金属等の溶出機構

*昆 周作1、品川 俊介1 (1.土木研究所)

キーワード:酸性水、ガルバニック相互作用、砒素、黄鉄鉱、黄銅鉱、硫砒鉄鉱

建設発生土に含まれる硫化鉱物が空気や降雨に曝されることにより、カドミウムや鉛、砒素、フッ素といった自然由来重金属等の溶出や酸性水が発生することで、周辺の環境汚染と健康被害が生じる恐れがある。適切な評価方法の確立や対策工を講じるうえで重金属等の発生源や溶出機構を理解することは必要不可欠である。その一方で、重金属等や酸性水の発生源において、鉱物種の反応速度の違いや鉱物間の化学反応に加え、バクテリアによる溶出促進等が複雑に関連し合うため、その発生源や溶出機構については不明確な点も多い。
 硫化鉱物の中でも、黄鉄鉱は最も普遍的に存在する鉱物であるため、砒素の溶出や酸性水の発生源として頻繁に取り上げられる。実際、肉眼観察から黄鉄鉱が分布する箇所を試料採取し、雨水曝露試験を実施すると、短期間で重金属等の溶出と酸性水を検出する傾向がある。本来は黄鉄鉱と水の反応速度は低調であるため、黄鉄鉱起源の重金属等は短期間で溶出しにくいが、電気化学的環境下においては容易に溶出し、酸性の環境下においてはバクテリアによる硫化鉱物の分解作用によって更に溶出が促進されることが知られている。したがって、重金属等を短期間で検出する傾向はこのいずれか、もしくは両方の環境下に起因するものと想定されるものの、明確に示した先行研究は調べた限り存在せず、これらの現象を視覚的に捉えた研究も希少である。
 岩石中に分布する硫化鉱物における重金属等の溶出および酸性水の発生を視覚的に確認するため、美濃帯の堆積岩に分布する硫化鉄鉱体から試料を採取し、走査型電子顕微鏡を用いて観察を行った。採取した硫化鉄鉱体には、主に黄鉄鉱や黄銅鉱、硫砒鉄鉱が分布しており、多少の閃亜鉛鉱と磁硫鉄鉱が含まれていた。その中でも、黄鉄鉱や硫砒鉄鉱に接する黄銅鉱は虫食い状を呈しており、選択的に溶解が生じていることを確認した。この現象は、異なる硫化鉱物が接するときに電極電位の高低差によって鉱物間で電子のやり取りが行われ、鉄イオンや硫化物イオン等の離脱が促進されるガルバニック相互作用と考えられる。本研究で分析した試料においては、この初期段階における酸性水の発生源は黄銅鉱と考えられる。また、黄銅鉱の溶解を終え、空隙化した箇所に接する硫砒鉄鉱の表面部や亀裂沿いには、コベリン (CuS) が析出しており、このコベリンの表面部には酸化銅が分布していた。このコベリンの析出について、黄銅鉱から離脱した銅イオンが硫砒鉄鉱の陽イオンである鉄イオンや砒素イオンと置換することで、砒素の溶出に寄与していることを示している。黄銅鉱が選択的にイオン離脱するため硫砒鉄鉱に含まれる砒素の溶出の「一時的な」遅延剤として機能するものの、その一方で、黄銅鉱起源の銅イオンが硫砒鉄鉱の陽イオンである砒素イオンと置換してしまい、結果的に砒素を溶出してしまうのである。さらに硫砒鉄鉱から置き換わったコベリンの表面部が水と反応することで硫酸イオンが発生してしまい、最終的には酸性水が発生して、コベリンの「出がらし」となった酸化銅が分布すると考えられる。
 本発表では、硫化鉱物間のガルバニック相互作用による黄銅鉱の溶出や硫砒鉄鉱の陽イオンの置換の様子を捉えた電子顕微鏡画像を示しながら、重金属等と酸性水の発生源および発生機構について論じたいと考えている。