日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS15] 海洋物理学一般

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (5) (オンラインポスター)

コンビーナ:土井 威志(JAMSTEC)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[AOS15-P03] 海洋レーダシステムによる海洋表面流速計測へのパッシブレーダ技術の応用に関する考察

*灘井 章嗣1 (1.情報通信研究機構)

キーワード:海洋表面流速、パッシブレーダ技術、海洋レーダ

近年、電波周波数資源の有効利用が技術開発課題として挙げられてきている。環境計測のために使用されるレーダの増加に伴い、レーダ間で電波干渉が発生する確率は増大する。このため、複数の受信器で送信源を共有するパッシブレーダ技術が、周波数資源を有効活用する手段として注目されている。本稿では、海洋表面流速を計測する海洋レーダシステムへのパッシブレーダ技術の応用に関して検討した。
 通常のレーダではレーダとターゲット間の距離が計測される一方、外部送信源と受信器からなるパッシブレーダでは直達波とターゲットによる散乱波の時間差が計測される。このため、ターゲットと送信源・受信器の位置関係により距離分解能が変化する。特に、送信源と受信器を結ぶ線に近づくほど距離分解能が劣化する。
 パッシブレーダで計測されるドップラー速度は、送信源および受信器から見たターゲット方向の中間となる方向のターゲット移動速度成分に、その交差角で決まる係数がかかったものになる。交差角が小さい(送信・受信ターゲット方向が同じ向きに近い)場合には係数は1に近いが、交差角が大きくなる(送信・受信ターゲット方向が対向に近くなる)につれ係数は0に近づく。このため、送信源と受信器を結ぶ線に近づくほど速度計測能力が低下する。
 パッシブレーダを海洋レーダとして使用する場合、入射角と反射角が等しく、1波長ずれた海洋波による散乱波の伝搬長差が電波波長と等しくなるような海洋波による散乱がブラッグ共鳴条件を満たすことにより、受信器への信号に最も強い寄与をもたらすと考えられる。この場合、送信源と受信器を結ぶ線に近づくほど、散乱に寄与する海洋波の波長が長くなり、位相速度は大きくなる。一方、この領域ではパッシブレーダの速度計測能力が劣化するため、実際に計測されるドップラー速度は小さくなる。
 このように、パッシブレーダによる海洋表面流速計測においては、計測領域によって流速計測能力が変化する。特に、送信源と受信器を結ぶ線に近い領域では分解能劣化、速度計測能力の劣化が大きく、有効な計測は難しいと考えられる。
 1台のレーダでは1方向の速度成分しか計測できないため、海洋表面流速を二次元ベクトルとして計測するためには2台以上のレーダによる計測が必要となる。2方向成分から流速ベクトルを算出する場合、方向成分の交差角が90度に近いほど流速ベクトル計測精度は高くなる。
 パッシブレーダを用いた流速ベクトル計測としては、送信源として通常のレーダを使用して1受信器を使うパッシブレーダと組み合わせたシステム(バイスタティックレーダ)と、送信源と2つの受信器を使う2つのパッシブレーダを組み合わせたシステムが考えられる。
バイスタティックレーダの場合、計測される2方向成分の交差角を大きくできないうえ、パッシブレーダによる計測領域が送信源と受信器を結ぶ線に近い領域に限定されることから、流速計測能力を高めることができず、実用には適さないと考えられる。
 2つのパッシブレーダを用いる場合には、計測される2方向成分の交差角は2受信器との位置関係により決定されるため、送信源の位置は自由に選ぶことができる。このため、計測対象領域を送信源とは逆の方向になるように2つの受信器を設置することにより、精度よく海洋表面流速を計測することが可能となる。
 今後、これらの特性を活かした観測システムの検討を進め、実観測での検証を目指すことにする。