日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS16] 海洋化学・生物学

2023年5月21日(日) 09:00 〜 10:15 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:三角 和弘(一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 )、川合 美千代(東京海洋大学)、座長:三角 和弘(一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部)、川合 美千代(東京海洋大学)

09:45 〜 10:00

[AOS16-04] 人工ナノ粒子による底生有孔虫Ammonia venetaの成長阻害

*稲垣 優花1氏家 由利香2 (1.高知大学理工学部生物科学科、2.高知大学海洋コア総合研究センター)

キーワード:人工ナノ粒子、毒性、有孔虫、長期培養

二酸化チタン(TiO₂)人工ナノ粒子は、様々な産業製品に使用されている一方、廃棄物として排出され、海洋へ流出し分解されず蓄積するため、新たな海洋汚染物質として海洋生態系や人間の健康へ悪影響を及ぼすことが懸念されている。底生有孔虫は沿岸域を含めた海底に広く分布する従属栄養型の単細胞真核生物である。本生物は、海水中の溶存イオンを用いて炭酸カルシウムの殻をつくり、仮足を用いて周囲の物質を集めることから、汚染環境のモニター生物として適している。実際、TiO₂ナノ粒子を1ppm添加した曝露実験によるトランスクリプトーム解析から、有孔虫は人工ナノ粒子を細胞内に取り込むことによって活性酸素が発生するなど細胞毒性を呈すること、一方でTiO₂ナノ粒子をセラミドで包み細胞外へ放出することによって解毒することが示唆された (Ishitani et al., 改訂中)。しかし、有孔虫が長期間汚染環境で生存が可能か、また生存における汚染濃度の限界値は不明である。そこで、本研究では、Ammonia venetaのクローン培養株を用い、異なる濃度のTiO₂ナノ粒子を添加した条件で有孔虫を5週間ごと長期培養し、給餌頻度の条件を変えた3つのセットで成長率を検証した。
TiO₂ナノ粒子を異なる濃度(1, 10, 50 ppm)で添加した曝露実験では、50ppmはA. venetaの生存限界を超えていることが示された。また、給餌頻度が高いと、1ppmとコントロールの個体間のチャンバー増加率(成長率)に差がなくなったため、1, 5, 10 ppmで給餌頻度を増やして再度培養した結果、同様の結果が得られた。一方、餌として使用している緑藻Dunaliella salinaを別途1, 5, 10 ppmで培養した結果、コントロールと1ppmでは同等の細胞増加率を示すが、5, 10 ppmでは先の2条件より低い細胞増加率を示した。また、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(SEM-EDS)による殻表面の観察から、一部にチタンの付着が認められたが、仮足が展開する殻構造の部分はほとんど変化がなく、高濃度のTiO₂曝露下でも仮足を用いて採餌する観察結果に一致した。したがって、TiO₂ナノ粒子の添加環境では、有孔虫そのものが受ける毒性よりも、餌資源の減少により有孔虫の成長率が下がることが示唆された。さらに上記の実験を通して、5, 10 ppmのTiO₂濃度では全ての個体が4週間目には死亡することが確認され、高濃度のTiO₂曝露下では有孔虫の生存率は低いことが示唆された。しかし低濃度(1ppm)ではクローン発生が確認されており、遺伝毒性についての今後の検証が必要だと思われる。
(引用文献)
Ishitani, Y., C. Ciacci, Y. Ujiie, A. Tame, M. Tiboni, G. Tanifuji, Y. Inagaki, and F. Frontalini, Fascinating strategies of marine organisms to cope with coming pollutant, Titanium dioxide nanoparticle. Environmental Pollution, in revision.