日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS16] 海洋化学・生物学

2023年5月21日(日) 09:00 〜 10:15 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:三角 和弘(一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 )、川合 美千代(東京海洋大学)、座長:三角 和弘(一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部)、川合 美千代(東京海洋大学)

10:00 〜 10:15

[AOS16-05] 海洋生態系の保全に向けた海洋生物ウェルビーイング指標の果たす役割 -魚類の映像データ・分析に関する考察-

*上江洲 愛1、ヘレン スチュアート1鈴木 彩1、中村 亨1、久田 正樹1 (1.NTT宇宙環境エネルギー研究所)

キーワード:海洋生態系、魚類、ウェルビーイング、観測技術

海洋生態系の保全と持続的な利用に対する関心が世界的に高まっている。保全に向けた取り組みを効果的に行う上で、海洋生物の生きる環境のアセスメントでの評価が重要である。本研究では、海洋生物の生息環境の評価を最終目的として「海洋生物ウェルビーイング指標」の確立をめざしている。水質や食べ物といった海洋生物が生きる上で不可欠な要素のウェルビーイングの基準を定め、この基準を満たすかどうかを海洋生物の行動分析や体組成分析といった定量的な方法で判定する。海洋生物のウェルビーイングの定量化は、彼らの価値基準で生息環境を評価することにつながり、取り組んだ効果の検証のために有用である。
ウェルビーイングの基準は具体的に、水質や食事の質、捕獲リスク、休息環境の有無などを規定する。定量的な方法とは具体的に、観測データから海洋生物のいくつかの行動を自動検出し、日内変動や季節変動を含む経時変化に伴う行動の頻度を分析して、ウェルビーイングを推定する。指標の作成工程では、海洋生物の生存に直結する水質や、逃避行動などの経験がウェルビーイングに与える影響について検討する。
本発表は、検討の第一歩として、カメラで撮影した特定魚種の行動のモニタリングおよび分析状況を紹介する。閉鎖環境で飼育されている特定魚種の映像データを用いて摂餌や睡眠といった目的のある行動と、そうでない行動との出現頻度を分析する。次のステップは経時的な行動の分類と評価を試み、食べ物や個体数の変化が海洋生物の行動にどのように影響するかを観測する予定である。
今後は、水中映像や生物音などのあらゆるセンサ情報を用いて、確信度の高い状態推定を行うことを計画している。海洋生物の視点からウェルビーイングを考えることで、海洋環境の評価や生物多様性の保全に関する新たな知見が得られることを期待している。