日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] オンラインポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS16] 海洋化学・生物学

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:三角 和弘(一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 )、川合 美千代(東京海洋大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[AOS16-P01] 気象庁東経165度線における25年の観測から得られた表面海水中全炭酸濃度の長期変化傾向

*小野 恒1遠山 勝也1、延与 和敬2飯田 洋介2笹野 大輔2中岡 慎一郎3石井 雅男1 (1.気象研究所、2.気象庁、3.国立環境研究所)

キーワード:東経165度線、全炭酸濃度、増加速度、重回帰分析

1. はじめに
海洋は大気中に放出された人為起源CO2の約4分の1を吸収し、大気中のCO2増加と地球温暖化の進行を緩和する働きをしている。しかし、海洋におけるCO2吸収は、海水中の全炭酸濃度(DIC)の増加やpHの低下といった「海洋酸性化」を引き起こしており、海洋生態系への影響が懸念されている。将来的な大気中CO2の増加に伴う海洋酸性化を正確に予測するためには、DICやpHの長期変化傾向の実態を海域ごとに把握する必要がある。今回、1996〜2019年の25年間における観測データを基に、東経165度線の亜寒帯域から赤道域における表面海水中DICの平均増加速度を算出し、海域ごとの特徴を調べた。

2. データと手法
東経165度線の表面海水中DICは、表面海水中の二酸化炭素分圧(pCO2sea)と全アルカリ度(TA)、リン酸塩およびケイ酸塩とLueker et al. (2000)の平衡定数を用いて算出した。pCO2seaデータは、気象庁による1996~2019年の観測データとSOCATv2020 に収録された東経165度付近(東西1.5 度)の他機関の観測データを使用した。全アルカリ度(TA)は、南緯5度〜北緯32度と北緯47度〜北緯50度については、nTA(塩分規格化したTA)に時空間的に変動が見られなかったためそれぞれの平均値を用い、北緯33度〜北緯46度については、Takatani et al. (2014)を参考に、nTA観測データに対し海面塩分および衛星海面高度を説明変数とした重回帰分析を行い、nTA 推定式を作成した。また、リン酸塩およびケイ酸塩はWorld Ocean Atlas 2018の気候値を使用した。
以上のように得られた nDIC(塩分規格化したDIC) に対し、観測年、海面水温および海面塩分を説明変数として重回帰分析を行うことで、東経165度線の南緯5度〜北緯50度の緯度1度ごとの 1996~2019年におけるnDIC平均増加速度を求めた。

3. 結果と考察
東経165度線におけるnDIC平均増加速度は、亜熱帯域と熱帯域で大きく、亜寒帯域で小さいという明瞭な南北分布を示し、+0.09 ± 0.14〜+1.64 ± 0.16 μmol kg-1 yr-1であった(添付図)。北緯49度および50度の増加速度は特に小さく、その増加傾向は95%の信頼区間で統計的に有意ではなかった(p>0.05)。得られたnDICの平均増加速度は、多くの海域において大気CO2の増加傾向から想定されるnDIC増加速度と一致していた。しかし、一部の海域では有意な差が見られた。西部亜寒帯循環の中央部に位置する北緯50度付近と亜熱帯循環南部の北緯10度付近ではnDIC増加速度が大気CO2から想定される値より有意に小さく、これらは海洋循環の変動に伴うDIC変動によってもたらされた可能性が示唆された。また一方、黒潮続流周辺の北緯33度付近ではnDIC増加速度が有意に大きく、黒潮続流の流路安定性の10年規模変動に関連した冬季鉛直混合の変動が影響したためと考えられる。

添付図キャプション:
東経165度線(赤)と東経137度線(青)における1996〜2019年の表面海水中nDICの平均増加速度の緯度分布を示す。塗りつぶしは 95%信頼区間、黒線は大気CO2増加速度から想定される nDIC増加速度、背景は1993~2019年平均の海面高度を示す。統計的に有意ではないnDIC増加速度を白抜きで表す。

参考文献:
Ono, H. et al. (2023) Meridional variability in multi-decadal trends of dissolved inorganic carbon in surface seawater of the western North Pacific along the 165°E line. Journal of Geophysical Research: Oceans, 128, e2022JC018842. https://doi.org/10.1029/2022JC018842