日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS17] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2023年5月23日(火) 15:30 〜 16:45 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:和田 茂樹(筑波大学)、高橋 大介(東海大学)、永井 平(水産研究教育機構)、増永 英治(Ibaraki University)、座長:増永 英治(Ibaraki University)、和田 茂樹(筑波大学)

16:00 〜 16:15

[AOS17-08] 湿原-河口-沿岸浅海域の連続体水系における有色および蛍光性溶存有機物の分布と供給源の評価

*文谷 和歌子1、Angraini Willy1伊佐田 智規2 (1.北海道大学 大学院環境科学院、2.北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

キーワード:溶存有機物、炭素循環、湿原河川、アマモ、養殖、沿岸浅海域生態系

海洋における溶存有機物 (DOM) の炭素量は大気中の二酸化炭素や陸上の生物量に匹敵すると言われているため (Hansen et al., 2015) , その動態は地球における炭素循環を理解する上で非常に重要である。 易分解性溶存有機物は細菌に取り込まれ, 細菌から原生動物, さらには原生動物から動物プランクトンという微生物ループを介した炭素の連鎖系を形成している。 一方難分解性溶存有機物は海洋中に長期滞留もしくは貯蔵される。 これまでに, 湿原は腐植物質を主とする難分解性溶存有機物の供給源であること, 沿岸域におけるDOMの動態, 養殖生物から生成される易分解性溶存有機物に関する研究は個別に行われてきたが, 湿原, 養殖生物, アマモなどの様々な生態系が複雑に作用し, さらに寒流の流れる亜寒帯沿岸域でのDOMの動態に関する研究は未だ行われていない。 そこで, 北海道東部に位置する厚岸水系を調査対象域とし, 国内2位の湿地面積を誇る別寒辺牛湿原を流れる湿原河川-養殖生物やアマモの生息する厚岸湖河口域-親潮の影響を受けた沿岸浅海域の連続体水系におけるDOMの分布とその供給源について調べた。
2022年の5月, 6月, 8月, 9月, 10月に1回ずつ湿原河川, 厚岸湖河口域, 沿岸浅海域のそれぞれで採水を行い, 有色溶存有機物 (CDOM) の光吸収スペクトル, 蛍光性溶存有機物 (FDOM) の励起蛍光スペクトル, 塩分, 水温の時空間変化を調べた。 CDOMの光吸収スペクトルは分光光度計で測定し, 光吸収係数を求めた (Babin et al., 2003) 。 FDOMは三次元励起光スペクトル法を用いてタンパク質様蛍光物質と腐植様蛍光物質の分類と同定を行った (Lawaetz and Stedmon, 2009) 。 また, 塩分と水温はCTDセンサーのデータを用いた。
355 nmにおけるCDOMの光吸収係数 (aCDOM(355)) と塩分との関係はすべての月で保守的混合を示し, CDOMのほとんどは湿原から供給されていたことが分かった。 しかし, 養殖やアマモ場で得られたデータでは, aCDOM(355) と塩分との間に明らかな保守的混合を示さない月があり, 養殖生物やアマモがCDOMの生産に寄与していることが示唆された。 またFDOMの解析から, 腐植物質, タンパク質のチロシン, トリプトファンなどの成分が確認された。 腐植物質は塩分と保守的な混合を示し, 供給源が主に湿原であったが, タンパク質はどの生態系からも同程度放出されており, タンパク質様のFDOMの生成に養殖生物やアマモの寄与していることが示唆された。