13:45 〜 15:15
[BCG05-P02] 原生生物の生体高分子における多様性と初期進化
キーワード:生体高分子、パリノモルフ、セルロース、キチン
原生生物由来の硬質の有機質殻や膜組織はパリノモルフ(有機質微化石)として他の有機物よりも保存されやすい。生体高分子の代表格としてセルロースとキチンが良く知られている。原生生物由来のパリノモルフは大きくセルロース質とキチン質に二分できる。接合藻類の細胞壁や渦鞭毛藻の鎧版は単純なセルロースで構成される。Spiniferitesなどの独立栄養性渦鞭毛藻が形成するシストの細胞壁は,セルロースに構造が類似しているが,アルキル鎖に富み,糖鎖がアルキル鎖によってネットワーク状に繋がることで保存性を高めている。この構造は花粉・胞子のスポロポレニンとも類似している。また,アルキル鎖が主要な成分であるクンショウモなどの緑藻類が合成するアルジナンも分解に強い特徴がある。その一方,渦鞭毛藻 Alexandriumなどが形成する単純な楕円形~球形のシストは主にセルロースからなる分枝多糖で構成されており,堆積物中での保存性も低いことから,セルラーゼによって容易に分解されていると推測できる。また,従属栄養性渦鞭毛シストや繊毛虫のロリカ/シスト,有殻アメーバの殻,有孔虫ライニングなどはキチン質であり,主に糖鎖とペプチド鎖から構成される糖タンパク質である。単純な球形のキチン質パリノモルフはそのなかでも分解しやすいが,構造による違いからは分解性を議論できていない。まとめると,多糖質の高分子を独立栄養生物はアルキル鎖によって,従属栄養生物はペプチド鎖によって,より複雑な構造にすることで保存性を高めているといえる。
それでは,これらの生体高分子の構造は原生生物の進化史において,どのように変化してきたのだろうか。セルロース合成酵素がシアノバクテリアから伝搬してきた経緯から,酸素発生型光合成を行なう独立栄養生物において,セルロースは利用しやすかったと容易に推測できる。一方,キチン合成系はオピストコンタとSARスーパーグループから派生していったと推測され,前者は真菌類や後生動物,後者は渦鞭毛藻や繊毛虫,有孔虫などへと引き継がれていったといえる (Hoshino and Ando, JpGU2022)。したがって,これらの合成系は原生生物の進化の最初期にすでにそれぞれの分類群が固有に獲得していたといえる。それに対して,緑藻が一部の種しかアルジナンを合成しないこと,渦鞭毛藻においてGonyaulacalesに含まれるSpiniferitesとAlexandriumシストで分解性が全くことなることを考えると,アルキル鎖の装飾や利用は進化のなかでそれぞれのタクサで独立して起きたといえる。これらのことから,原生生物の初期進化時に堆積した原生界堆積岩中のパリノモルフにおいて捕食-被捕食の関係やスーパーグループの分岐を理解する上で,セルロースかキチンのどちらで構成されていたかを推定することが最重要であるといえる。
セルロースやキチンは維管束植物や真菌類が陸上に繁茂するデボン紀以降の環境ではセルラーゼやキチナーゼによって分解されやすいと想像される。興味深いことに,初期の原生生物由来のアクリタークの形態は単純球形であり,分解されやすい現生種パリノモルフと酷似している。また,デボン紀末のハンゲンベルグ事変でアクリタークの種数は激減するが,陸上生態系の拡大と同期しているようにもみえる。一方で,セルロースとキチンは単純な熱分解には強く,400℃の高温を受けてもどちらに由来したかを判別できることがわかった。したがって,デボン系以深の堆積岩を用いて,アクリタークの高分子分析を進めることで,過去の水圏生態系の発達における重要な知見が得られる可能性がある。実際に,中原生界試料中のアクリタークを分析した結果,一部の試料は熱分解実験を経たセルロースやキチンと似たスペクトルを得ることができた。ところが,現生種の分析結果から,これらのパリノモルフは初期続成過程でアモルファス有機物などの他の有機物からの物理的・化学的な付加を受けることも明らかになった。現在,より詳細な研究を行なうため,従来の赤外分光分析よりも空間分解能が高い分析手法の開発と検討を進めている。
それでは,これらの生体高分子の構造は原生生物の進化史において,どのように変化してきたのだろうか。セルロース合成酵素がシアノバクテリアから伝搬してきた経緯から,酸素発生型光合成を行なう独立栄養生物において,セルロースは利用しやすかったと容易に推測できる。一方,キチン合成系はオピストコンタとSARスーパーグループから派生していったと推測され,前者は真菌類や後生動物,後者は渦鞭毛藻や繊毛虫,有孔虫などへと引き継がれていったといえる (Hoshino and Ando, JpGU2022)。したがって,これらの合成系は原生生物の進化の最初期にすでにそれぞれの分類群が固有に獲得していたといえる。それに対して,緑藻が一部の種しかアルジナンを合成しないこと,渦鞭毛藻においてGonyaulacalesに含まれるSpiniferitesとAlexandriumシストで分解性が全くことなることを考えると,アルキル鎖の装飾や利用は進化のなかでそれぞれのタクサで独立して起きたといえる。これらのことから,原生生物の初期進化時に堆積した原生界堆積岩中のパリノモルフにおいて捕食-被捕食の関係やスーパーグループの分岐を理解する上で,セルロースかキチンのどちらで構成されていたかを推定することが最重要であるといえる。
セルロースやキチンは維管束植物や真菌類が陸上に繁茂するデボン紀以降の環境ではセルラーゼやキチナーゼによって分解されやすいと想像される。興味深いことに,初期の原生生物由来のアクリタークの形態は単純球形であり,分解されやすい現生種パリノモルフと酷似している。また,デボン紀末のハンゲンベルグ事変でアクリタークの種数は激減するが,陸上生態系の拡大と同期しているようにもみえる。一方で,セルロースとキチンは単純な熱分解には強く,400℃の高温を受けてもどちらに由来したかを判別できることがわかった。したがって,デボン系以深の堆積岩を用いて,アクリタークの高分子分析を進めることで,過去の水圏生態系の発達における重要な知見が得られる可能性がある。実際に,中原生界試料中のアクリタークを分析した結果,一部の試料は熱分解実験を経たセルロースやキチンと似たスペクトルを得ることができた。ところが,現生種の分析結果から,これらのパリノモルフは初期続成過程でアモルファス有機物などの他の有機物からの物理的・化学的な付加を受けることも明らかになった。現在,より詳細な研究を行なうため,従来の赤外分光分析よりも空間分解能が高い分析手法の開発と検討を進めている。