日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG06] 岩石生命相互作用とその応用

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、須田 好(産業技術総合研究所)、白石 史人(広島大学 大学院先進理工系科学研究科 地球惑星システム学プログラム)、座長:福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、須田 好(産業技術総合研究所)

09:00 〜 09:15

[BCG06-01] 沖縄県久米島の礁性微生物皮殻中に見られるスフェルライトの起源

*佐々木 佑二郎1藤田 和彦2富岡 尚敬3高橋 嘉夫4白石 史人1 (1.広島大学、2.琉球大学、3.海洋研究開発機構、4.東京大学)

微生物岩は過去約35億年間の生命活動や地球環境を記録しており,近年では石油資源の観点からも注目されている.微生物岩には,しばしばスフェルライトと呼ばれる球晶が含まれており,微生物起源であるとする研究も多い.実際に近年,微生物岩を貯留岩とする巨大油田が発見されたが,その中にはスフェルライトが大量に含まれていることが明らかとなっている.しかしながら,スフェルライトが微生物起源であるとする解釈は,主に走査型電子顕微鏡 (SEM) などを用いた形態観察に基づいており,より直接的な証拠を欠いている.また顕生代においては,ホヤが骨片としてスフェルライトに類似した粒子を形成することから,微生物岩中に見られる“スフェルライト”の解釈には特に注意を要する.そこで本研究は,微生物起源のスフェルライトとホヤ骨片を見分けることを目的とし,海成微生物岩である礁性微生物皮殻 (RMC; reefal microbial crusts) とウスボヤ科の骨片を用いて検討を行った.
RMC試料は,沖縄県久米島西銘崎に打ち上げられた台風石から採集した.ホヤ骨片試料もまた,久米島近海から採集した.これらの試料は,偏光顕微鏡とSEMを用いて形態観察および元素組成分析を行った.微生物起源と考えられるスフェルライトに関しては,薄片試料から集束イオンビーム (FIB) 加工によって薄膜試料を作成し,走査型透過X線顕微鏡 (STXM) および透過型電子顕微鏡 (TEM) を用いて観察・分析した.
偏光顕微鏡観察の結果,ホヤ骨片は球状または突起を持った金平糖状の外形を呈し,針状結晶の束が集合して構成されていることが明らかになった.同様の特徴を示す粒子はRMC試料中にも散在しており,これらはホヤ骨片起源であると考えられる.一方,RMC直下の空隙中に見られるスフェルライトは,緻密に放射状配列した針状結晶で構成されており,隣接するスフェルライトと密接しているためにその外形は他形を示した.またその内部には,直径約1 mmのフィラメント状構造がしばしば認められ,中心部から放射状に配列する場合もあった.このような特徴はホヤ骨片とは明らかに異なっていることから,微生物起源を示している可能性が高い.実際にSTXM分析では,フィラメント周縁部にカルボキシ基と非晶質炭酸カルシウム (ACC) を特徴付けるスペクトルが確認され,これは微生物の細胞外高分子を介した炭酸塩沈殿を示唆している.SEMによる元素組成分析では,この微生物起源と考えられるスフェルライトのS/Ca比がホヤ骨片のそれに比べて有意に低く,これは硫酸還元細菌が生息するような還元的環境下で形成されたことを示しているのかもしれない.