日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG06] 岩石生命相互作用とその応用

2023年5月22日(月) 10:45 〜 12:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、須田 好(産業技術総合研究所)、白石 史人(広島大学 大学院先進理工系科学研究科 地球惑星システム学プログラム)、座長:鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、白石 史人(広島大学 大学院先進理工系科学研究科 地球惑星システム学プログラム)

10:45 〜 11:05

[BCG06-05] 走査型軟X線蛍光顕微鏡とその応用観察事例の紹介 ~ 地球惑星科学の発展に資する分光顕微鏡を目指して ~

★招待講演

*大浦 正樹1 (1.理化学研究所・放射光科学研究センター)

キーワード:軟X線顕微鏡、元素マッピング、化学状態分析

He置換大気圧あるいは低真空環境下にある物質や構造物の表面または界面において、それら物質を構成する元素の分布や構成元素の化学状態分析、はたまたそこで起こる化学反応などを可視化することを目的として、2017年度より、大型放射光施設 SPring-8 の軟X線ビームライン BL17SU にて走査型軟X線蛍光顕微鏡の開発を進めてきた[1]。改良に改良を重ね、2019年度に安定して作動するようになってからは、様々な物質の局所領域の分光分析に使われるようになり、2022年度の後期からはSPring-8共同利用課題実験により一般ユーザーにも公開されている。
フレネルゾーンプレート(FZP)と呼ばれる光学素子による集光軟X線ビームと高精度のステージ群を組み合わせることで、二次元顕微分光による電子状態マッピングを実現し、試料表面の微小領域や複合材の接合界面などにて詳細な化学状態分析が行えるようになっている。2023年2月現在のセットアップでは、軟X線のエネルギー範囲として1次回折で410~756 eV、3次回折では1230~2250 eVの範囲にて、300~500 nmΦ 程度の集光ビームが利用可能であったが、利用できないエネルギー領域(410 eV以下及び756~1230 eV)があった。これを解決するため、2023年の3月に新しいFZPを増設し、このFZPによって1次回折で250~476 eV、3次回折で750~1428 eVのエネルギー範囲が新たにカバーされることになった。これにより、C/N/O/F、Na/Mg/Al/Siといった軽元素のK殻や、3d遷移金属のL殻を使った分光研究が可能となる。観察対象となる試料周辺の環境は、低真空(~10 Pa)から大気圧Heガス雰囲気下の条件とすることができるのも特徴の一つである。
装置は2枚のアパーチャーを使用した差動排気チェンバーを介してビームラインと接続されている。FZPチェンバー(~10-4 Pa)と試料環境(~10 PaもしくはHe置換大気圧)は炭化シリコン窓(2 mm×2 mm、厚さ200 nm)で区切られており、試料周辺の環境多様化を可能にしている。FZPで集光された軟X線放射光は、炭化シリコン窓を抜けた後、OSA(Order Sorting Aperture)による回折次数の選択を経て、高精度ステージに搭載された試料に照射される。集光軟X線ビームにより誘起された試料からの蛍光軟X線をシリコンドリフト検出器で計測し、元素分布マッピングや微小領域の吸収スペクトル測定など、各種分光計測を行っている。
2020年からは理研スタッフによる利用研究が開始され、環境指標にも使われる珪藻の被殻中の元素分布の可視化[2]、熱可塑性樹脂(PEEK)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)と熱硬化性エポキシ系接着剤の接着接合界面の観察[3,4]、建築構造物であるセラミックタイル/接着剤/モルタル構造の断面/界面の観察[5]などを進めてきた。最近では、法科学分野での応用研究が進められる一方、一般ユーザーによる共同利用課題として地球惑星科学関連の研究にも使われ始めている。
学会当日は、装置の詳細と応用観察事例の一部を紹介する。また、より高効率な観察を可能とする新しい顕微鏡の開発の現状についても併せて紹介したい。

参考文献
[1] M.Oura et al., J. Synchrotron Rad. 27, 664-674 (2020).
[2] T.Ishihara et al., PLoS ONE 15, e0243874 (2020).
[3] H.Yamane et al., Commun. Mater. 2, 63 (2021).
[4] H.Yamane et al., Sci. Rep. 12, 16332 (2022).
[5] M.Oura et al., J. Adh. Sci. Tech. (doi: 10.1080/01694243.2022.2093076)