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[BCG06-P01] プチスポット火山産玄武岩とカンラン石捕獲結晶における微生物―水―岩石相互作用の解明
キーワード:岩石内生命、カンラン石、スメクタイト、16S rRNA解析、Nitrosopumilus
海洋地殻は、中央海嶺で形成された玄武岩質の岩石で構成されている。そのうち、上部海洋地殻の玄武岩を対象とした微生物学的な研究により、玄武岩中に発達する亀裂には形成後1億年経っても、微生物生態系が維持されることが明らかにされている(Suzuki et al., 2020)。形成後1億年を経て沈み込む前の海洋地殻は水深約6000 mに達し、深海平原と呼ばれる。深海平原は大陸からの距離が離れおり、栄養塩量が制限されているため、海洋表層の光合成活動が制限される。そのため深海平原は堆積速度が遅く、光合成由来の有機物に乏しい環境となる。形成年代が1億年を超える東北沖のアウターライズと呼ばれるプレート屈曲場では、海洋リソスフェア底部に相当する深度から上昇したアルカリ玄武岩質マグマが局所的に噴出し、プチスポット火山と呼ばれる海底火山を形成する。そのため、プチスポット玄武岩の中にはマントルに由来するカンラン岩捕獲岩やカンラン石捕獲結晶も見つかる。また、プチスポットマグマは二酸化炭素や水を多く含み、急冷の際に気泡に由来する空孔を多く形成する。したがって、空孔多いのプチスポット玄武岩中では低温での海水―岩石が促進され、供給されるエネルギーによる特異的な微生物生態系が存在することが期待される。そこで本研究は、Suzuki et al. (2020)によって開発された手法をプチスポット火山の玄武岩に適用して、微生物―水―岩石相互作用の実態解明を試みた。
2021年5月に実施されたしんかい6500を用いた東北沖のプチスポット火山の調査(YK21-07S次航海)で、サイトBから採取された玄武岩試料(37’37.5’N, 149’30.4’E, 水深~5900 m)を用いた。玄武岩試料は最大で3 mm程度のカンラン石の捕獲結晶と、最大で5 mm程度の空孔が多数存在しており、一部の空孔には海底堆積物由来の黄土色粒子が詰まっていた。また、玄武岩試料の外側は橙色のカンラン石の捕獲結晶が多く、内側に向かうほど薄緑色のカンラン石の捕獲結晶の頻度は高かった。微生物に関して、玄武岩の全菌数は外側で1.9×106 (cells/cm3)、内側で3.9×105 (cells/cm3)であった。深海水の微生物数は103–104 (cells/ml)であることから、玄武岩に微生物が増殖していることがわかった。また、玄武岩からDNAを抽出し、16S rRNA群集構造解析を行なった結果、Nitrosopumilaceae科の古細菌が全体の14.3%を占めた。Nitrosopumilaceae科で最も多い配列は、好気性で独立栄養のNitrosopumilus piranensisと相同性が93%であった。次いで、Woeseiaceae科の細菌が6.4%で優占していた。Woeseiaceae科のうち最も多い配列は、通性嫌気性で従属栄養細菌のWoeseia oceaniと相同性が95%であった。また、全体の3.1%はMagnetospiraceae科の細菌であった。この結果から、玄武岩中には分子系統学的および生理学的に多様な微生物群集の存在が示唆される。同一の玄武岩試料の薄片をSYBR GreenⅠで染色し、蛍光顕微鏡で観察を行なった結果、カンラン石捕獲結晶中の亀裂と、空孔中の変質鉱物に微生物細胞の存在が認められた。現在、微生物細胞と共存する鉱物の局所分析を行なっており、その結果についても発表する。
Suzuki, Y., Yamashita, S., Kouduka, M. et al. Deep microbial proliferation at the basalt interface in 33.5–104 million-year-old oceanic crust. Commun Biol 3, 136 (2020). https://doi.org/10.1038/s42003-020-0860-1
2021年5月に実施されたしんかい6500を用いた東北沖のプチスポット火山の調査(YK21-07S次航海)で、サイトBから採取された玄武岩試料(37’37.5’N, 149’30.4’E, 水深~5900 m)を用いた。玄武岩試料は最大で3 mm程度のカンラン石の捕獲結晶と、最大で5 mm程度の空孔が多数存在しており、一部の空孔には海底堆積物由来の黄土色粒子が詰まっていた。また、玄武岩試料の外側は橙色のカンラン石の捕獲結晶が多く、内側に向かうほど薄緑色のカンラン石の捕獲結晶の頻度は高かった。微生物に関して、玄武岩の全菌数は外側で1.9×106 (cells/cm3)、内側で3.9×105 (cells/cm3)であった。深海水の微生物数は103–104 (cells/ml)であることから、玄武岩に微生物が増殖していることがわかった。また、玄武岩からDNAを抽出し、16S rRNA群集構造解析を行なった結果、Nitrosopumilaceae科の古細菌が全体の14.3%を占めた。Nitrosopumilaceae科で最も多い配列は、好気性で独立栄養のNitrosopumilus piranensisと相同性が93%であった。次いで、Woeseiaceae科の細菌が6.4%で優占していた。Woeseiaceae科のうち最も多い配列は、通性嫌気性で従属栄養細菌のWoeseia oceaniと相同性が95%であった。また、全体の3.1%はMagnetospiraceae科の細菌であった。この結果から、玄武岩中には分子系統学的および生理学的に多様な微生物群集の存在が示唆される。同一の玄武岩試料の薄片をSYBR GreenⅠで染色し、蛍光顕微鏡で観察を行なった結果、カンラン石捕獲結晶中の亀裂と、空孔中の変質鉱物に微生物細胞の存在が認められた。現在、微生物細胞と共存する鉱物の局所分析を行なっており、その結果についても発表する。
Suzuki, Y., Yamashita, S., Kouduka, M. et al. Deep microbial proliferation at the basalt interface in 33.5–104 million-year-old oceanic crust. Commun Biol 3, 136 (2020). https://doi.org/10.1038/s42003-020-0860-1