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[BCG06-P02] 海成堆積物中における陽イオン交換反応及び全岩化学組成変動に関する地球化学モデリング
キーワード:陽イオン交換反応、天水浸透、PHREEQC、全岩化学組成
1. はじめに
JAEAでは放射性廃棄物処分における安全評価及び性能評価技術の信頼性向上の一環として, 幌延深地層研究計画で得られたボーリングコアや水質の分析データを活用し, 地球化学モデルによる解析手法の妥当性及び適用性確認のための研究を実施している. ここで対象とする幌延地域の新第三紀海成堆積物 (稚内層及び声問層)中では, 地表から浸透した天水による化石海水の洗い出しにより, 陽イオン交換反応に伴うNa溶脱が起きていることが指摘されている (石井ほか, 2007). 天水が浸透した深度について, 地下水の水素・酸素同位体組成に基づく推定 (Mochizuki&Ishii, 2022)と全岩組成からの推定結果には大きな差があることが分かっている. 本研究では, 陽イオン交換反応を主体とした地球化学モデルによる解析結果と水質や全岩化学組成の実測値を比較し, 上述した差異の考察や地球化学モデルの適用性について検討した. ここではバッチ系を想定して行った静的陽イオン交換の計算結果について報告する.
2. 陽イオン交換反応モデル
本研究では, イオン交換に寄与する表面サイトを簡易的に1種類 (X-)と見なし, Na-K-Ca-Mg-H-Xの陽イオン交換反応系についてモデル化した. 例えばNa-Me (Me = K, Ca, Mg)の陽イオン交換反応 Men+ + nNaX = MeXn + nNa+ (nはMeの価数)の平衡定数KNa/Meは,
KNa/Me = {(γNa+・mNa+)n/(γMen+・mMen+)}・{(γMeXn・mMeXn)/( γNaX・mNaX)n}
γiは任意の化学種iの活量係数, miはiのモル濃度
と書ける.
ここでは, 表面化学種の活量係数は溶存種の活量係数と等しい (c.f., Neal&Cooper, 1983; Appelo, 1994)として, PHREEQC (Parkhurst&Appelo, 2013; 25 degC; phreeqc.dat; 活量補正は拡張Debye-Hückel式)を使用して計算を行った. このときKNa/Meは以下のように書ける.
KNa/Me = {EMeXn/(ENaX)n}・{(ENa+)n/EMen+}・(Ctot/CEC)
Eiは化学種iのモル当量分率, Ctotは溶液中の全イオン濃度, CECは陽イオン交換容量
KNa/Meはモンモリロナイトの値 (Bradbury&Baeyens, 2002)に基づいて設定した. KNa/HはAppelo (1994)が帯水層想定で使用している値を設定した. CECは1.59–1.72 mol/kgwとした.
なお洗い出し後の全岩中の塩基カチオン含有量は, イオン交換に伴う増減分を初期含有量に加えることで算出し, 洗い出し前後で一定値と見なしたAl2O3との重量比として示す.
3. 結果と考察, 今後の課題
洗い出し過程における水質変化について化石海水と天水の混合計算で簡易的に再現し, バッチ系における静的陽イオン交換の計算を行った. 交換性陽イオン組成変化をFigure 1に示す. 支配的な交換性陽イオンは洗い出し前後でNaXからCaX2に変化し, それに応じて全岩のNa2O/Al2O3は0.05程低下した. 洗い出し前後のECaX2は0.14増加し, 全岩のCaO/Al2O3比も増加した. この結果から, 天水浸透領域ではNa2O/Al2O3低下とCaO/Al2O3増加が起こると予想される.
ボーリングコアの全岩組成プロファイルをFigure 2に示す. Mochizuki&Ishii (2022)によれば, 深度400 m程度まで氷期の地表水 (=古天水)の影響が認められている一方, Na2O/Al2O3比の減少が認められる領域は250 m以浅の深度までである. 250 m以浅では, CaO/Al2O3が増加するZone-1 (深さ<150 m)と, Na2O/Al2O3が減少するのみのZone-2 (深さ171–225 m)が確認できる. よって, 静的陽イオン交換の計算と整合する全岩組成の特徴がZone-1において確認できた. 一方, Zone-2及び-3の特徴は計算と合致しておらず, 陽イオン交換以外の化学反応の寄与もしくは反応輸送に伴う遅延や水質緩衝効果が影響している可能性が示唆された.
今後は, 陽イオン交換と輸送の連成解析 (反応輸送の連成に伴う遅延の影響)やNa2O-K2O-CaO-MgO-Al2O3系に関与する鉱物の飽和指数の計算 (水質緩衝効果の影響)結果等も考慮し, Zone-2及び-3の解釈を進める.
JAEAでは放射性廃棄物処分における安全評価及び性能評価技術の信頼性向上の一環として, 幌延深地層研究計画で得られたボーリングコアや水質の分析データを活用し, 地球化学モデルによる解析手法の妥当性及び適用性確認のための研究を実施している. ここで対象とする幌延地域の新第三紀海成堆積物 (稚内層及び声問層)中では, 地表から浸透した天水による化石海水の洗い出しにより, 陽イオン交換反応に伴うNa溶脱が起きていることが指摘されている (石井ほか, 2007). 天水が浸透した深度について, 地下水の水素・酸素同位体組成に基づく推定 (Mochizuki&Ishii, 2022)と全岩組成からの推定結果には大きな差があることが分かっている. 本研究では, 陽イオン交換反応を主体とした地球化学モデルによる解析結果と水質や全岩化学組成の実測値を比較し, 上述した差異の考察や地球化学モデルの適用性について検討した. ここではバッチ系を想定して行った静的陽イオン交換の計算結果について報告する.
2. 陽イオン交換反応モデル
本研究では, イオン交換に寄与する表面サイトを簡易的に1種類 (X-)と見なし, Na-K-Ca-Mg-H-Xの陽イオン交換反応系についてモデル化した. 例えばNa-Me (Me = K, Ca, Mg)の陽イオン交換反応 Men+ + nNaX = MeXn + nNa+ (nはMeの価数)の平衡定数KNa/Meは,
KNa/Me = {(γNa+・mNa+)n/(γMen+・mMen+)}・{(γMeXn・mMeXn)/( γNaX・mNaX)n}
γiは任意の化学種iの活量係数, miはiのモル濃度
と書ける.
ここでは, 表面化学種の活量係数は溶存種の活量係数と等しい (c.f., Neal&Cooper, 1983; Appelo, 1994)として, PHREEQC (Parkhurst&Appelo, 2013; 25 degC; phreeqc.dat; 活量補正は拡張Debye-Hückel式)を使用して計算を行った. このときKNa/Meは以下のように書ける.
KNa/Me = {EMeXn/(ENaX)n}・{(ENa+)n/EMen+}・(Ctot/CEC)
Eiは化学種iのモル当量分率, Ctotは溶液中の全イオン濃度, CECは陽イオン交換容量
KNa/Meはモンモリロナイトの値 (Bradbury&Baeyens, 2002)に基づいて設定した. KNa/HはAppelo (1994)が帯水層想定で使用している値を設定した. CECは1.59–1.72 mol/kgwとした.
なお洗い出し後の全岩中の塩基カチオン含有量は, イオン交換に伴う増減分を初期含有量に加えることで算出し, 洗い出し前後で一定値と見なしたAl2O3との重量比として示す.
3. 結果と考察, 今後の課題
洗い出し過程における水質変化について化石海水と天水の混合計算で簡易的に再現し, バッチ系における静的陽イオン交換の計算を行った. 交換性陽イオン組成変化をFigure 1に示す. 支配的な交換性陽イオンは洗い出し前後でNaXからCaX2に変化し, それに応じて全岩のNa2O/Al2O3は0.05程低下した. 洗い出し前後のECaX2は0.14増加し, 全岩のCaO/Al2O3比も増加した. この結果から, 天水浸透領域ではNa2O/Al2O3低下とCaO/Al2O3増加が起こると予想される.
ボーリングコアの全岩組成プロファイルをFigure 2に示す. Mochizuki&Ishii (2022)によれば, 深度400 m程度まで氷期の地表水 (=古天水)の影響が認められている一方, Na2O/Al2O3比の減少が認められる領域は250 m以浅の深度までである. 250 m以浅では, CaO/Al2O3が増加するZone-1 (深さ<150 m)と, Na2O/Al2O3が減少するのみのZone-2 (深さ171–225 m)が確認できる. よって, 静的陽イオン交換の計算と整合する全岩組成の特徴がZone-1において確認できた. 一方, Zone-2及び-3の特徴は計算と合致しておらず, 陽イオン交換以外の化学反応の寄与もしくは反応輸送に伴う遅延や水質緩衝効果が影響している可能性が示唆された.
今後は, 陽イオン交換と輸送の連成解析 (反応輸送の連成に伴う遅延の影響)やNa2O-K2O-CaO-MgO-Al2O3系に関与する鉱物の飽和指数の計算 (水質緩衝効果の影響)結果等も考慮し, Zone-2及び-3の解釈を進める.