10:45 〜 12:15
[BCG06-P06] 箱根温泉・大涌谷の「黒たまご」は、なぜ黒いのか? ~卵殻外層の黒色物質の起源推定
キーワード:箱根温泉・大涌谷、「黒たまご」、卵殻の黒色物質、非破壊・破壊分析、有機分子レベル分析
箱根温泉・大涌谷の「黒たまご」は,地熱と火山ガス等の化学反応を利用した産物であり,古くから箱根の名物である.卵殻の黒い理由の詳細は,長らく不明のままであった.科学的な知見が少ないまま,殻表面に硫化鉄が付着するためと言われてきたが,黒たまごは放置しておくと1日程度で褪色してしまう.硫化鉄は空気中で比較的安定なため,褪色現象を説明することは困難である.本研究では,まず,黒たまごをクエン酸水溶液中に静置し,薄膜状の黒色物質の単離を行った.次に,単離された黒色物質を様々な非破壊および破壊分析法を用いて検証した.その結果,無機成分は少なく,有機成分であるタンパク質様物質を多く含むことを明らかにした.さらに,炭素・窒素・硫黄の含有量が多いことから,有機物と硫黄を介した架橋反応の形成も示唆された.卵殻外層の黒色物質は,タンパク質様物質のメイラード反応(褐変反応)により生成され,空気中での酸化により硫黄の架橋構造の分解に伴う褪色の可能性が考えられた.そのような準安定的な過程を経て,黒たまごの黒色物質は,保存状態の良い有機―無機複合体として,卵殻外層に存在することが考察された.箱根温泉供給株式会社には今回の研究発表についてご理解いただいた. KEYENCE株式会社からは,レーザー元素分析に関する技術協力を頂いた.