日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG07] 地球史解読:冥王代から現代まで

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (20) (オンラインポスター)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[BCG07-P04] 西オーストラリア,ピルバラ地域における太古代の縞状鉄鉱層および熱水系チャート中の鉱物同定による堆積場復元

*井口 祐輔1清川 昌一1 (1.九州大学)


大酸化事変(GOE)以前(Holland 2006) の太古代は,大気酸素が無いとされるが酸化作用で形成した縞状鉄鉱層(BIF)はいろいろな場所で報告があり,その成因については続成作用や変成作用により多くの場合堆積当時の構造や組成が失われているため様々な議論がある(Holland 2006, Konhauser et al., 2002). 例えば1)熱水噴出孔からFe2+やSiO2が供給され,有光層以深では,2価の鉄鉱物(シデライト(FeCO3)やグリーナライト(Fe2-3Si2O5(OH)4),グリーンラスト(FE(Ⅱ)4Fe(Ⅲ)2(OH-)12・CO32-・2H2O)など)として沈殿する.2)有光層ではシアノバクテリアの働きにより,2価の鉄が酸化されてフェリハイドライト(Fe(OH)3)として沈殿する.そして,このフェリハイドライトが海底にてメタン還元菌などの働きによって3価から2価の鉄に還元され,シデライトなどとして再沈殿するというモデルがある.BIF中の初生の鉄鉱物については,グリーナライトを初生鉱物として当時の海水中の非晶質シリカが飽和状態にあったと仮定した場合,4パターンの沈殿モデルが提唱されている(Johnson,2018).1)Fe2+が海中にて飽和状態になり,シリカと結びつき沈殿.2)水中のFe2+が生物活動や紫外線などを触媒として酸化され,Fe(II,III)グリーナライトとして沈殿.3)Fe2+の酸化により準安定鉱物であるグリーンラストを生成し,それが沈殿中に低 Fe(III)グリーナライト置換し沈殿.4)Fe2+の酸化により、前駆体としてフェリハイドライトが生成され,それが鉄酸化バクテリアなどにより再度還元され,低Fe(III)型グリーナライトとして沈殿.というものである
(層序)
西オーストラリア,ピルバラ海岸グリーンストーン帯は,チャート・BIFを含む地質層序・構造の研究が可能である(Kiyokawa et al, 2002). 特に,デキソンアイランド層(DX層)は,珪化した火山岩からチャート層に移り変わる32億年前の熱水活動が復元できる(Kiyokawa et al., 2006, Kiyokawa et al. 2019).全層厚が400m以上あり,下位からコマチアイト-流紋岩(KR)部層(Komatiite-Rhyolite Tuff Member: 層厚<250m),黒色チャート(BC)部層(Black Chert Member: 7~20m),多色チャート(VC)部層(Varicolored Chert Member: 150m)からなる.その上位に位置するクリーバービル層(CL層)は,黒色頁岩からBIFに移り変わる31億年前の連続層が保存良く残っている.CL層は,下位から黒色頁岩部層,BIF層に区分される. これらの地層は中太古代におけるBIF層や熱水系チャートで最も変成度が低く,当時の地層情報を保存されている可能性が高い.
(方法)
本研究においてDX層BC部層の海岸線に露出する岩石,CL3についてはCL3掘削コアを使用して,そこに残される鉱物同定のために詳細な観察,分析を行った. .DX,CL3の試料について薄片を作成後,顕微鏡観察,SEM観察,一部ではTEM観察を行った.
(結果)
DXについてはSEM観察により,パイライトが濃集し層として並んでいることがわかり,またバイオマット層直上の黒色チャート層よりApatiteの結晶が見つかった.CL3層には,クローライトおよびシデライトを主とする粘土層が含まれており,チャート中のTEM観察によりグリーナライト結晶に類似する短冊状結晶が発見された. DX層のチャート中のアパタイトは熱水環境下において生物の活動が行われていた可能性を示唆しており,地層中に残されているバイオマット化石や微生物の化石(Kiyokawa et al. 2006)とも整合性がある.CL層については,グリーナライトに類似する鉱物がチャート中に見つかっており,この地層は堆積初期の情報を保存している可能性が高いと思われる.

参考文献
Kiyokawa, S., Taira, A., Byrne, T., Bowring, S., and Sano, Y., 2002, Structural evolution of the middle Archean coastal Pilbara terrane, Western Australia: Tectonics, v. 21, no. 5, p. 8-1–8-24, doi: 10.1029/2001TC001296.
Kiyokawa, S., Ito, T., Ikehara, M., Kitajima, F., 2006, Middle Archean volcano-hydrothermal sequence: Bacterial microfossilbearing 3.2 Ga Dixon Island Formation, coastal Pilbara terrane, Australia, GSA Bulletin; January/February 2006; v. 118; no. 1/2; p. 3–22; doi: 10.1130/B25748.1; 12 fi gures; 1 table.
Kiyokawa, S,. Aihara, Y., Takehara, M., Horie, K., 2019, Timing and development of sedimentation of the Cleaverville Formation and a post-accretion pull-apart system in the Cleaverville area, coastal Pilbara Terrane, Pilbara, Western Australia, Island Arc; 2019;28:e12324; doi: 10.1111/ iar.12324
Holland, H.D., 2006. The oxygenation of the atmosphere and oceans, Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci. 2006 Jun 29; 361(1470): 903–915.
Konhauser, K.O., Hamade, T., Raiswell, R., Morris, R.C., Ferris, F.G., Southam, G.,
Canfield, D.E., 2002. Could bacteria have formed the Precambrian banded iron
formations? Geology 30, 1079–1082.
Johnson, J.E., Muhling, J.R., Cosmidis, J., Rasmussen, B., and
Templeton, A.S. (2018) Low-Fe(III) greenalite was a primary
mineral from Neoarchean oceans. Geophys Res Lett 45, doi:
10.1002/2017GL076311.