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[BCG07-P10] 手取層群北谷層の芳香族炭化水素組成に記録された前期白亜紀の陸上生態系における火災活動
キーワード:手取層群、白亜紀、アルビアン、自然火災、古環境、多環芳香族炭化水素
手取層群は主に非海生層からなる下部白亜系で、東アジアの陸域古環境の復元において重要な動植物化石が多数報告されている。白亜紀の陸域では、高い大気酸素濃度のもと大規模な自然火災が頻発し、陸上生態系の擾乱や物質循環の改変を通じて生態系と古気候の変遷に重要な影響を与えた可能性が指摘されている [1]。この仮説を検証するためには、火災頻度の変遷の情報を全球的に充実させ、生物相や他の古環境情報と比較する必要がある。そこで本研究では、福井県勝山市の北谷恐竜化石発掘現場に分布する手取層群北谷層の堆積岩と植物化石の有機地球化学分析を行い、芳香族炭化水素画分に含まれる多環芳香族炭化水素(PAHs)の組成から、有機物の保存状態(熟成度)と、自然火災に由来する分子組成の特徴を評価した。
北谷層の有機物の熱熟成度は、メチルフェナントレン熟成度指標(MPI-1、MPR)から、ビトリナイト反射率換算値にして0.8 % 程度(オイル生成段階)に相当する。北谷層の堆積岩試料は、特徴的な化石の産出層準(ボーンベッドや翼竜足跡層)や、河川周辺の異なる堆積場(氾濫原や放棄流路)から採取されており、PAHs組成には試料間で多様性がみられたが、堆積岩試料から高温での燃焼の産物と考えられるコロネンが検出され、アルビアンの河川周辺で高温のバイオマス燃焼が生じていたことが示唆された。本研究で得られた北谷層のPAHs組成を先行研究[2]のデータと組み合わせて、手取層群および九頭竜層群を通じたPAH組成の変遷を再評価したところ、北谷層のコロネン含有量は、下位の手取層群や九頭竜層群よりも顕著に多く、アプチアンからアルビアンにかけて火災の頻度が増大したことが示唆された。恐竜発掘露頭における北谷層堆積時の火災記録は、大気酸素濃度の増加[1]や、植物化石群集・古土壌解析結果等から示唆される手取層群堆積末期の気候の温暖化・乾燥化[3]など複数の素因が作用しあう中でもたらされたと考えられる。
[1] Brown et al. (2021). Cretaceous Research, 36, 162-190.
[2] Hasegawa & Hibino. (2011). Island Arc , 20(1), 23-34.
[3] Sakai et al. (2018). Jour. Geol. Soc. Japan, 124, 171-189.
北谷層の有機物の熱熟成度は、メチルフェナントレン熟成度指標(MPI-1、MPR)から、ビトリナイト反射率換算値にして0.8 % 程度(オイル生成段階)に相当する。北谷層の堆積岩試料は、特徴的な化石の産出層準(ボーンベッドや翼竜足跡層)や、河川周辺の異なる堆積場(氾濫原や放棄流路)から採取されており、PAHs組成には試料間で多様性がみられたが、堆積岩試料から高温での燃焼の産物と考えられるコロネンが検出され、アルビアンの河川周辺で高温のバイオマス燃焼が生じていたことが示唆された。本研究で得られた北谷層のPAHs組成を先行研究[2]のデータと組み合わせて、手取層群および九頭竜層群を通じたPAH組成の変遷を再評価したところ、北谷層のコロネン含有量は、下位の手取層群や九頭竜層群よりも顕著に多く、アプチアンからアルビアンにかけて火災の頻度が増大したことが示唆された。恐竜発掘露頭における北谷層堆積時の火災記録は、大気酸素濃度の増加[1]や、植物化石群集・古土壌解析結果等から示唆される手取層群堆積末期の気候の温暖化・乾燥化[3]など複数の素因が作用しあう中でもたらされたと考えられる。
[1] Brown et al. (2021). Cretaceous Research, 36, 162-190.
[2] Hasegawa & Hibino. (2011). Island Arc , 20(1), 23-34.
[3] Sakai et al. (2018). Jour. Geol. Soc. Japan, 124, 171-189.