日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT04] 地球生命史

2023年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:本山 功(山形大学理学部)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)

15:45 〜 16:00

[BPT04-02] 緑の海の仮説:酸素発生型光合成生物と生息環境の共進化

*伊藤(三輪) 久美子1,2藤井 悠里3菅野 里見2松尾 太郎1,2 (1.名古屋大学・大学院理学研究科、2.名古屋大学・高等研究院、3.京都大学大学院人間・環境学研究科)

キーワード:共進化、酸素発生型光合成、大酸化イベント、集光アンテナ

シアノバクテリアは酸素発生型光合成を初めて成功させ、約24億年前に地球の大酸化イベントを引き起こして生命の進化と多様化を推し進めたと考えられている。しかし、シアノバクテリアの誕生と進化の過程は謎につつまれている。この謎を説明するため、我々は光合成の第一段階である集光アンテナによる光の捕集に着目した。シアノバクテリアはビリン色素を結合したフィコビリソームと呼ばれる巨大なアンテナによって集光し、高等植物はクロロフィルを結合したLHCと呼ばれる小型なアンテナによって集光する。 ビリン色素とクロロフィルは吸収する光の波長が異なり、ビリン色素は緑色、クロロフィルは青色と赤色の光を吸収する。フィコビリソームは巨大なタンパク質複合体で維持に極めてコストがかかる仕組みであり、原始のシアノバクテリアがわざわざフィコビリソームを進化させたことは何らかの意義があったと考えられるが、その理由は不明であった。
本研究で我々は、シアノバクテリアの集光アンテナ、フィコビリソームの進化を説明する「緑の海の仮説」を提唱する。光合成生物が利用できる光のスペクトルを地球表層の酸化の段階によって特徴づけると、地球の歴史は光合成生物とその生息環境の共進化の観点から3つの時代に分けられる。
1 還元的な(酸素が存在しない)水中における、クロロフィルを利用した光合成生物の誕生
2 部分的に酸化された有光層における、フィコビリソームを持つシアノバクテリアの誕生
3 完全に酸化された地球表層における、クロロフィルを利用した現代型アンテナの誕生。
最初の時代にクロロフィルからなる光合成システムが完成した後、2番めの時代に有光層の部分的な酸化によって緑の海が形成された。大酸化イベントの後の3番めの時代に緑の集光は不要になり、現代型のアンテナはコストのかかるフィコビリソームによる集光をやめた。発表では、緑の海の仮説について詳しく紹介するとともに、系統解析、生物の実験、および計算化学によって緑の海の仮説を検証した結果を発表し、議論する。