日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT04] 地球生命史

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (19) (オンラインポスター)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[BPT04-P02] 底生有孔虫化石からわかる上総海盆の前期更新世海底環境

*尾内 千花1亀尾 浩司2北里 洋3桑野 太輔1 (1.千葉大学、2.千葉大学理学研究科地球科学、3.国立大学法人東京海洋大学 )

キーワード:古海洋環境、底生有孔虫、黄和田層、上総層群、房総半島、前期更新世

日本列島東岸では,北太平洋亜熱帯循環の一部である黒潮と,北太平洋亜寒帯循環の一部である親潮の2つの海流が存在する.これらは房総半島沖で混合域を形成し,その変化は低緯度から高緯度地域の気候変動と強く関連してきた.従って,北太平洋の古海洋学的研究は,全球的な気候変動を理解するために重要である.
日本列島の中部,太平洋側に位置する房総半島に分布する上総層群は,過去の北太平洋海域における気候変動を調べるための地質学的記録として有用である.上総層群は豊富な層序学的記録と大きな堆積速度が特徴であり,このことも高い時間分解能での検討を可能である.近年,上総層群下部に位置する黄和田層の上部で,高精度な年代モデルが確立され,海洋表層の環境変遷が復元された(Kuwano et al., 2021, 2022).石灰質ナノプランクトンと有孔虫の酸素同位体比の分析に基づき,海洋表層のプロキシーから氷期間氷期サイクルが抽出されている.そこで本研究は,1310–1204 kaの上総海盆における海洋底層の環境変化を復元するため,底生有孔虫化石群集を検討した.
本研究では,黄和田層上部の22試料から少なくとも81属100種の底生有孔虫化石を同定した.1310–1204 kaにおける検討層準の古水深は,全層準でStilostomella spp. が連続に産出することから,中部漸深海帯 (水深約1000–2000 m)であったと考えられる.また,Globocassidulina spp., Cassidulina subcarinata,およびその他の黒潮流域に特徴的な分類群が共通して認められることから,検討層準は黒潮流域の底層環境と類似していたと推定される.一部の分類群の層位変化は,Kuwano et al. (2021)の酸素同位体層序に基づく氷期・間氷期サイクルと概ね一致することから,グローバルな氷床変動とこの地域の海洋変動と関係があったことを意味している.また,底生有孔虫化石の群集変化によれば,次の特徴的な環境変化が推定される.それらは,1)Melonis pompilioidesBulimina rostrata が多産することから,約1274–1248 kaに酸素に富む水塊が流入し,有機フラックスの供給が乏しかったこと,2)約1248–1243 kaにおけるPseudoparrella naraensisの多産は,海洋表層から新鮮な植物デトリタスが季節的・間欠的に供給されたことに起因し,Kuwano et al.(2022)との比較から表層環境との栄養塩に富む親潮の南方移動に関連すること,3)Bolivina robustaBulimina aculeataが多産することから,1230–1204 kaでは表層から有機フラックスが多量に供給され,海洋低層が貧酸素化したこと,である.また,寒冷種のCassidulina delicataCassidulina norcrossiが産出することも考慮すると,当時は上総海盆の底層水が黒潮だけでなく,親潮起源の水塊から構成されていた可能性が示唆される.

Kuwano et al., Stratigraphy, 18(2), 103-121, 2021.

Kuwano et al., Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 592, 110873, 2022.