日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT04] 地球生命史

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (19) (オンラインポスター)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[BPT04-P06] 光合成生物のリンの獲得機構は地球リン環境と共進化したか?

*菅野 里美1伊藤 久美子1藤井 悠里2松尾 太郎1 (1.名古屋大学、2.京都大学)

キーワード:リン、リン輸送体タンパク質

地球45億年の歴史のうち80〜90%は,鉄を多く含む海域の影響により,リンは、正リン酸(PO43-)の形で近海堆積物に埋蔵されていたと考えられている(Bjerrum and Canfield, 2002)。そのため新第三紀から原生代(32億年から19億年)のPi濃度は,現在と比較して10〜25%程度であったと考えられている。一方で、当時の海には溶存シリカが豊富に存在するとも考えられており、シリカは、鉄粒子を結合させるために生物が利用できるリン酸塩は鉄に制限されていないという見解もある (Konhauser et al., 2007)。その後、5億4千万年前に堆積物中のリン酸塩の増加に伴い、酸素の顕著な変化、生物の多様化が進み(Johnston et al., 2009, Reinhard et al.., 2017)、地球上のリンは、生命発達の律速となっていたことが示唆される。
現在の地球上のリン環境は様々である。例えば海洋では、海面下は0.1~0.4μMの平均濃度で存在するが、リンは極域でより多く存在し、南極大陸では2μMを超える濃度の「ホット」スポットが観測されている。また、これらの濃度は、深さとともに上昇する(水深1000mで1.2~3.2μM)。陸上では、世界中の5275の土壌を分析した結果から、1.4から9630 mg kg-1の範囲の違いがある(He et al.., 2021)。肥料添加のない自然生態系の土壌は、リンの含有量がかなり少ない(平均26,8~62,2 mg kg-1)。土壌中に存在する燐酸塩の大部分は、有機物と結びついているか、陽イオン(Fe、Al、Ca、Cd...)や粘土によってキレートされた無機物の形で存在しており、例えば植物が利用できるリン酸としては0,032 µMから310 µMの範囲にあるとされている。そのため、生物は環境中のリン酸を回収するための様々なリン酸の取り込みシステムを備え進化させてきた。私たちは、その多様性と進化には、地球環境のリンの変遷が反映されているのではないかと考えたことから、本研究では、リン輸送体タンパク質に注目し、それらの配列比較と近年開発されたタンパク質構造予測ソフトウェアAlphaFold 2 (Jumper et al.., 2021; Skolnick et al.., 2021)によるタンパク質構造予測から、リン輸送体タンパク質を4つの異なるグループに分類した。その中には、リンの吸収を微調整するための高親和性トランスポーターと低親和性トランスポーターが存在する。この機能の違いは、細菌や酵母では異なるタンパク質に割り当てられており、植物では翻訳後の制御により活性をリン供給に応じて高親和性から低親和性に調節していると考えられている(Ayadi et al..、2015)。高親和性トランスポーターのうち最も低濃度のリンに対応するものは単細胞生物である。酵母や細菌のKmは0,1〜0,5μM、一部の植物プランクトン生物はわずか10〜20nM のリン環境で生存する能力を持つ。このことは、初期地球から存在するバクテリア類が低濃度域に対応した機構を持つのに対し、高等植物は高濃度へ対応することを示す。ポスターでは、生物進化の視点から、地球初期の低リン説を支持するデータが見えてきたことを紹介する。