日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-02] 総合的防災教育

2023年5月21日(日) 10:45 〜 12:00 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:林 信太郎宇根 寛中井 仁(小淵沢総合研究施設)、小森 次郎(帝京平成大学)、座長:林 信太郎(秋田大学大学院教育学研究科)、久利 美和(気象庁)、宇根 寛

10:45 〜 11:00

[G02-01] 「ハザードマップを信じるな」をどう伝えるか

★招待講演

*宇根 寛1,2 (1.元国土地理院、2.お茶の水女子大学・研究協力員)

キーワード:ハザードマップ、地形分類図、地理総合

ハザードマップは、「自然災害の危険性に関連する種々の分布情報を、災害軽減を図るために紙や電子画面等(何らかのメディア)に表記したもの」(鈴木ほか2015)と定義されている。このうち、主に市町村が、災害に関する情報をもとに、避難に必要な情報を重ね合わせ、「防災マップ」などと称して住民に配布しているものを、ここでは「狭義のハザードマップ」と呼ぶ。水防法による義務付けなどにより狭義のハザードマップの整備が進み、近年の洪水の浸水範囲がこのようなハザードマップの想定とおおむね一致したことから、行政は、ハザードマップを確認し、それに基づき避難行動をとることを住民に求めている。そのこと自体はきわめて重要なことなのであるが、狭義のハザードマップを利用する際には、それが一定の仮定に基づく想定をベースにしていることに留意する必要がある。すなわち、「ハザードマップを信じるな」という言葉が示すように、狭義のハザードマップのベースになっている想定が、どのような仮定に基づいて行われているのかをよく把握し、想定と異なる現象が起こりうることを念頭に置いたうえで対応を考えておく必要がある。2011年の東北地方太平洋沖地震では、想定されていた浸水範囲と浸水深を大きく超え、特に、宮城県や福島県では、予測の数倍に及ぶ範囲が浸水したことから「従前の想定によるハザードマップが安心材料となり、それを超えた今回の津波が被害を拡大させた可能性がある。」と指摘された。仮定によらない災害のリスクを理解するためには、自分の足元がどのように成り立ってきたのか、今後どのような自然の営みが働くのかを把握しておくことが重要である。これを教えてくれるのが、地形分類図である。現在の土地は、河川改修や土地の人工的改変などにより、もともとの地形がわかりにくくなっているが、ひとたび災害が発生すると、土地は自然の営みに戻ろうとする。地形分類図から土地の成り立ちや災害のリスクを直接読み取るのは難しいが、例えば、国土地理院の地理院地図や国土交通省のハザードマップポータルサイトを用いると、ワンクリックでその場所の土地の成り立ちと自然災害のリスクが表示される。2022年度から必履修科目として開始された高等学校地理総合においては、「地図・GIS」と「防災」が重点的に教えられることになっている。このような機会を活かして、ハザードマップを一歩踏み出した防災教育を提案したい。