日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-02] 総合的防災教育

2023年5月21日(日) 09:00 〜 10:30 オンラインポスターZoom会場 (1) (オンラインポスター)

コンビーナ:林 信太郎宇根 寛中井 仁(小淵沢総合研究施設)、小森 次郎(帝京平成大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

09:00 〜 10:30

[G02-P04] 保育施設での防災訓練のあり方 ー職員の危機管理力の醸成ー

*浜上 あかり1大木 聖子2 (1.慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科、2.慶應義塾大学 環境情報学部)

キーワード:防災研修、未就学児、保育施設、地震防災、図上型訓練、保育士

2011年の東日本大震災の発生を受けて,文部科学省が行った調査では,「貴校(園)で実施した防災教育は、今回の震災において児童生徒等の主体的な行動に活かされましたか 」との質問に肯定的な回答をした校種別の割合は,小学校「93.5% 」,中学校「87.3% 」,幼稚園「75.4% 」と,幼稚園は小中学校に比べて低かった(文部科学省,2012).保育の現場からは「毎月の避難訓練自体は行っているものの,いま取り組んでいる訓練が,発災時に本当に役立つのか分からず不安」との声も挙がっている.そこで筆者らは東京都内にある保育施設(以下A保育園)との共同研究を行い,幼保施設における職員の危機管理能力として必要な要素とその訓練方法について検討した.
A保育園とは2019年6月から共同実践を開始し,体系的な防災教育の実践によって,2020年度末時点には,緊急地震速報を聞いて園児が自らの判断で机の下に入る,身を守るポーズを取る等の防災行動を取れるようになった.そこで次のステップとして,全職員の危機管理能力を底上げし,防災担当の職員への依存を極力なくすことを目指して共同研究を行うこととした.
まず,2021年9月に,A保育園の職員を対象に机上シミュレーションを行なった.具体的には,A保育園の見取り図を用いて,こちらが伝えた発災想定日時にその場所で起こりうるリスクを全員で書き出し,見取り図上に貼り付けたのち,それらが実際に起きた場合の対処方法を誰か職員が口頭で説明し,その後みんなで話し合う,というものである.この目的は「発災時のリスクの洗い出し」「対処の優先順位の決定」「対処の意思決定」である.結果として,この手法に関して,職員は全体の動きや資源を俯瞰してみることはできたものの,目の前の事象に対し意思決定する際にリアリティがなかなか伴わない点が課題として浮かび上がった.
上記の課題を踏まえて,2022年6月には発災時の状況のリアリティを上げるため,A保育園内の教室を使用して,職員が対処の演技をするという方法をとった.具体的には,教室内に各学年のスペースに見立てた机の島を作り,そこに発災時に起こるさまざまな事象を書いたイベントカードを配置していく.職員は,それぞれのイベントカードの優先順位を考えながら,対処方策を意思決定し,具体的に対処行動を取る,というものである.なお,イベントカードの内容は,2021年9月に行われた机上シミュレーションでのリストを活用した.結果としてこの手法によって,次々に起きる目の前の事象に対し優先順位を付けて意思決定する訓練を行うことができた.そして,トランシーバーを使用しての意思疎通に課題があること,けが人への対処にリアリティが欠けること,という課題が浮かび上がった.
筆者の所属する研究室では,小中学校の教員を対象に実動訓練を行っている.実動訓練とは,学校施設やけが人役の人員など,実際の資源を使って行う訓練のことである.上記の机上シミュレーションでは,実動訓練に比べてどうしてもリアリティが乏しくなる.しかし,傷病者役として大学生が未就学児を演じることは困難であり,実動訓練を保育施設職員の訓練に導入することには難点がある.そこで,過去に行った実動訓練の映像を職員に見てもらい,このようなリアリティのある訓練を保育施設職員向けに行うにはどうするのがいいかをヒアリングした.得られた結果は筆者らには意外なものであり,「実働訓練の必要性は感じるが、教員にとってトラウマ体験となって,本当の災害が起きた時に支障が出る可能性がある」というものだった.実際,東日本大震災の時には,大災害が起きていると感じていても,なるべく普段通りにすることで子供たちを動揺させないように努めたという.未就学児は普段の保育時にも,1人が泣き,連鎖的に他の園児が泣くという事象が起きる.このことから,保育施設職員に必要な危機管理能力のひとつとして,動揺を表に出さず,平静を装う力が挙げられることがわかった.
これを踏まえて,2021年11月の園児に向けた訓練の最中に,防災担当者がイベントカードを職員に手渡して,職員はそれに対処を行う,という訓練を実施した.例えば,年少の園児が身を守る姿勢を取っている最中に,「棚に足を挟んで動けない」と書かれたイラスト付きの紙を担任の職員に渡す.職員は架空のけが人となった園児を抱くしぐさをしながら,他の園児への声掛けも続けつつ,事務室に応援を求める連絡を入れる,という流れである.なお,イベントカードの内容は職員には知らされない.
本発表では,以上の未就学児の保育施設の職員に向けた危機管理能力を高める訓練のあり方をまとめ,報告する.

『東日本大震災の施設における学校等の対応に関する調査研究報告書』(文部科学省,2012)(対象:岩手・宮城・福島県)