日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-03] 小・中・高等学校,大学の地球惑星科学教育

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:00 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

14:00 〜 14:15

[G03-02] 命を守る「地学」の知識を公教育で位置づけるにはどうすべきか

*杉本 めぐみ1 (1.九州大学)

キーワード:公教育、地学、防災教育

気候変動による災害の激甚化が顕著になる中で、地学を防災教育として公教育に組み込むことは世界的に喫緊の課題である。著者は東南アジア教育機構の依頼でインドネシアの理科教育における防災の取り組みについて評価を行った。この経験からも、コストのかからない減災手段でありながら、世界的に防災教育が公教育に組み込まれている国はそれほど多くないが、教育現場で地学教育による防災教育が行われている。日本は災害国家でありながら、世界的な流れから後退気味で高校での地学教育の機会が減りつつある。
 災害の現場から地学教育の必要な事例を挙げる。2020年7月3日からの九州豪雨では、熊本県の芦北町や津奈木町などで土砂災害が発生し、犠牲者が出た。それから何日も時間がたった7月25日、長崎県諫早市の「轟の滝」の遊歩道で崖崩れが起き、母子2人が犠牲になった。地滑りも含めた地盤災害は、長雨の後しばらくして保水力が限界を超えて起こる恐れもあり、土砂災害危険エリアには不用意に近づかないようにする必要がある。地元の観光協会なども立ち入り禁止にするなど警戒態勢が必要である。
 さらに地学的な知見をしっておくことも重要である。土砂災害の予兆現象の主な七つのサインある:
①小石がパラパラと落ち続ける②地割れや段差が生じる③雨が降り続いているのに川の水が減る④流木があり、川の水が濁る⑤井戸水が濁る⑥湧き水が斜面から染み出る⑦地鳴りや山鳴りがする(図参照)。
 土砂災害の警報は雨量に基づき出されるが、これらのサインを見逃さなければ警報の前の避難に結びつく可能性がある。必ず事前に現れるわけでもなく地震で起こることもあり、なかなか捉えるのは難しいのが現状である。後で「そういえば地割れができていた」と気付くケースはこれまでに多々ある。
 このような防災知識は公教育で教えれば助かる命が増える。気象や地震だけでなく、地滑りや土石流などの知識を理科で教えると効果的である。近年、土砂災害について小学生は県の防災副読本でも学ぶが、どの先生も副読本を使わなくてもきちんと教えられるだろうか。
 自然災害は、高校の理科では主に地学の分野であるが、次第に大学入試の試験で地学を選択する受験生は一番少ない傾向にある。地学を教えない高校や県もあり、そのため専門教員が雇用されない―教えないから生徒が選択できない―専門の教育者が育たないという悪循環に陥っている。命を守る知識を地学で学ぼうにも、受験中心の高校教育では時間のロスだと思われがちなのである。
 防災は理科に限らず、非常食などは家庭科、避難所の公衆衛生などは保健など多岐にわたる知識が必要な総合科目である。海外との行き来が増えた現代は防災用語を、英語だけでなく各国言語で少しでも知っておく必要があります。しかし、英語の授業で防災に触れることは、ほとんどない。避難標識に書かれている、evacuation(避難)という英単語などサバイバルに必要な英語の知識も必要である。しかしながら、地学の知識は防災教育のベースとして不可欠であり、命を守る「地学」の知識を公教育で位置づけるために何が必要なことについて発表する。

https://www.unesco-school.mext.go.jp/materials/world-handbook-on-local-disaster-management-experiences/