日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-03] 小・中・高等学校,大学の地球惑星科学教育

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:00 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

14:30 〜 14:45

[G03-04] 海洋教育の普及に向けたイカ解剖実習の取組み

*小熊 幸子1、和田 薫2、浦田 慎3 (1.笹川平和財団海洋政策研究所、2.明星大学、3.一般社団法人能登里海教育研究所)

キーワード:海洋教育、教員研修、イカ解剖実習

海洋教育は、海流や水質・生物分布といった自然科学的な内容だけでなく、水産業や海運等の産業、防災、海にまつわる地域文化に至るまで、様々な分野に跨る。海洋基本法には国民の理解の促進のために海洋教育を推進するとあり、また第3期海洋基本計画には2025年までに全市町村で海洋教育に取り組むとある。しかし、学校現場では自主的な海洋教育の取り組みは少ない。その要因として、分野としての幅広さと専門性に加え、教員自らが学校で海洋の知識を学ぶ機会が少なかったことが挙げられる。近年は、より多くの学校で海洋教育に取り組めるよう、食材としても身近な海の魚介類を理科等の教材として取り入れる試みが、大学や研究機関と連携して進められている。昨年度より、文部科学省のGIGAスクール構想を踏まえた授業を中学校で行うにあたり、明星大学と能登里海教育研究所はICTを活用した海洋教育について研究し、全編オンライン指導によるイカの解剖授業を支援・指導している。授業では事前学習としてイカの生態や進化、イカ漁、イカと環境問題等の講義を受けた後、解凍生イカを解剖しながら器官を観察しその機能を学ぶ。現状では、本実習は基本的に中学理科の指定単元で取り組まれているが、事前学習を経て実際にイカに触れることで、イカの生態を知るだけでなく、イカを取り巻く海洋の環境や産業等の探究的な学びに繋がることが期待される。その一方で、解剖実習が教員研修として実施された場合、知識の習得や海洋に対する関心の広まりに加えて、自身の担当教科と海との繋がりについて考えるきっかけに活用できるのではないかと考えられる。
そこで当研究所では、西東京市立柳沢中学校で教員研修としてイカの解剖実習が行われた際に、参加教員の皆様にご協力をいただき、自身の担当教科と解剖実習との関連性や海洋教育に対する捉え方を中心に、教員としての意識の変容についてアンケート調査を実施した。その結果、解剖実習の内容を自身の担当教科に取り込めそうかという問いに対し、そう思わない・あまり思わない教員は事前から事後にかけ減少したが、どちらでもないという教員は4割から6割に増えていた。また担当科目との関連性や、授業内容に役立つ部分について、あまりないという教員は減少したが、5割前後の教員はどちらでもないという回答であった。一方、海洋教育を学校で取り組む際に必要と思われる事柄について、地域や保護者の理解と協力、管理職・教員の理解と連携、専門知識、校外学習の企画・運営に対する必要性はより強く感じられるようになった。しかし、学年間の連携の必要性は弱まり、カリキュラムとの整合性や教科単元との結びつきについてはどちらでもないという回答が増えた。研修当日の解剖実習自体は楽しく行われたが、研修で得られた知識の担当科目の授業への関連付けや、学年間の学習内容の連携までは考えが至らなかったことが推測される。本アンケートを通して、教員の研修を含めた具体的な授業モデルの提示による支援が、海洋教育の普及・発展に必要である可能性が示唆された。
今後イカ解剖実習に参加する学校においても同様のアンケートを実施し、教員の海洋の学びと担当教科の関連付けについて比較分析を行う。