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[G03-P06] 海洋におけるSTEAM教育の実践と評価―海洋ゴミを用いたアート制作を題材として―
キーワード:海洋教育、STEAM教育、海洋ゴミ、アート、水産高校
STEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)教育に、“A(Art/Arts)”として、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を広く定義し加えた「STEAM教育」は、学習者に多面的見方を促し課題解決する力の育成に効果的とされており、教育分野における一つの潮流となっている。文部科学省はSTEAM教育を通じて、「各教科等での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科等横断的な学習を推進」するとしている。
一方で第3期海洋基本計画に明記されているように、海洋分野においては人材育成と海洋に対する市民の理解促進は今後取り組むべき課題とされ、各地で様々な海洋教育が実践されてきた。しかしながら地域独自の取組みや熱意ある教員に依存した取組み事例が多い。またArt(芸術)やArts(リベラルアーツ)要素を組み込んだ実践例は少なく、これらの要素を組み込んだ海洋教育を試行することの意義は大きいと考えられる。
そこで海洋教育にSTEAM教育のエッセンスを取り込んだ「海のSTEAM教育」のカリキュラムの具体化を長期的な目標として、海洋ゴミを用いたアート作りのプログラムを開発し、水産高校において実践し、そのプログラムの効果・意義の評価を行うこととした。漂着メカニズムの探究への展開や、環境や漁業、海事等の様々な海洋分野の学習の起点になり得ることから、海洋ゴミを題材として選定した。
2023年1月に沖縄水産高校の海洋技術科2年生33名を対象に海洋ゴミを用いたアート作りのプログラムを実践した。同校は「海洋教育パイオニアプログラム」に採択される等かねてより先進的な海洋教育に取り組んでおり、新しく未完成の教育プログラムの実践も可能との判断から協力を依頼した。参加者は海洋ゴミに関する体系的な学習経験はなく、プログラム直前にも事前学習は実施しなかった。プログラムでは、背景説明、浜辺での海洋ゴミ回収、海洋ゴミの洗浄、アート作品の制作、作品の展示・プレゼンテーション・講評、収集した海洋ゴミの分別及び片付けを行った。いずれの時間帯の作業もグループ活動として行った。なお同様のプログラムを2022年12月に加茂水産高校においても実践しているが、紙面の都合から本研究では詳細には触れない。
プログラム実践の前後にはアンケート調査を行い、参加者の属性理解とプログラムの効果・意義の評価を行った。遠山・竹内(2018)は、学習者の内面的な変化、特に自尊感情の変化を指標として用いて協調的な音楽創作活動の評価を行っている。そこで本研究においても、自尊感情尺度を用いたプログラムの実施効果の評価を試みた。
自尊感情はウェルビーイング指標に包含される一要素である(三菱総合研究所、2022)。本ウェルビーイングは、「人間」が享受する主観的な幸福に加えて、人間が生活する上で無視できない外部要因である「地球」、「社会」という二つの制約条件を想定する。そこで自尊感情に加え、人間そのものに関わる価値観の重要性と満足度、社会や地球に関する価値観の重要性と実現度を問うアンケートも併せて実施した。本結果に基づき、本プログラムの効果として、地球や社会が人間を支え、人間も地球と社会に能動的に働きかけることで双方向性が生まれウェルビーイングが向上する可能性の検証を行った。
プログラム実践後に実施したアンケートでは9割の生徒がプログラムを通じて「達成感が得られた」、2割の生徒が何等かの「自信を得られた」と回答した。このことからプログラムの実践は短期的には自尊感情の向上に寄与したことが示唆される。加えて、4割の生徒は海洋ゴミ問題に対する関心が高まった、3割の生徒は海洋ゴミ問題に対してより積極的に取組みたいと意欲が高まったと回答した。海洋ゴミアート制作プログラムは参加者の自尊感情を高めるとともに、海洋ゴミ問題への関心を高め自分事として捉えるきっかけとなることが示唆される。
本研究で行った調査は量・回数ともに少なく、今後はプログラム参加者の変化を長期的に追跡・評価することが求められる。加えて事前・事後の学習とアート制作につながりをもたせたカリキュラム作りや、学校による体制の差異を考慮したプログラムの一般化、学校のリソースに依存しすぎず継続実施を可能とする仕組みについても検討する必要がある。
本研究は公益財団法人笹川平和財団からの委託業務の一環として実施した。2025年に大阪・関西万博が「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとして開催され、万博は四方を海に囲まれた会場で開催されること等から、「海の万博」として認知されている。海を通じた価値創出や地球規模課題の解決するテーマ・モデルを「海の万博」で発信することを目指し、そのひとつのテーマ候補として海洋教育に注目し研究を行った。
一方で第3期海洋基本計画に明記されているように、海洋分野においては人材育成と海洋に対する市民の理解促進は今後取り組むべき課題とされ、各地で様々な海洋教育が実践されてきた。しかしながら地域独自の取組みや熱意ある教員に依存した取組み事例が多い。またArt(芸術)やArts(リベラルアーツ)要素を組み込んだ実践例は少なく、これらの要素を組み込んだ海洋教育を試行することの意義は大きいと考えられる。
そこで海洋教育にSTEAM教育のエッセンスを取り込んだ「海のSTEAM教育」のカリキュラムの具体化を長期的な目標として、海洋ゴミを用いたアート作りのプログラムを開発し、水産高校において実践し、そのプログラムの効果・意義の評価を行うこととした。漂着メカニズムの探究への展開や、環境や漁業、海事等の様々な海洋分野の学習の起点になり得ることから、海洋ゴミを題材として選定した。
2023年1月に沖縄水産高校の海洋技術科2年生33名を対象に海洋ゴミを用いたアート作りのプログラムを実践した。同校は「海洋教育パイオニアプログラム」に採択される等かねてより先進的な海洋教育に取り組んでおり、新しく未完成の教育プログラムの実践も可能との判断から協力を依頼した。参加者は海洋ゴミに関する体系的な学習経験はなく、プログラム直前にも事前学習は実施しなかった。プログラムでは、背景説明、浜辺での海洋ゴミ回収、海洋ゴミの洗浄、アート作品の制作、作品の展示・プレゼンテーション・講評、収集した海洋ゴミの分別及び片付けを行った。いずれの時間帯の作業もグループ活動として行った。なお同様のプログラムを2022年12月に加茂水産高校においても実践しているが、紙面の都合から本研究では詳細には触れない。
プログラム実践の前後にはアンケート調査を行い、参加者の属性理解とプログラムの効果・意義の評価を行った。遠山・竹内(2018)は、学習者の内面的な変化、特に自尊感情の変化を指標として用いて協調的な音楽創作活動の評価を行っている。そこで本研究においても、自尊感情尺度を用いたプログラムの実施効果の評価を試みた。
自尊感情はウェルビーイング指標に包含される一要素である(三菱総合研究所、2022)。本ウェルビーイングは、「人間」が享受する主観的な幸福に加えて、人間が生活する上で無視できない外部要因である「地球」、「社会」という二つの制約条件を想定する。そこで自尊感情に加え、人間そのものに関わる価値観の重要性と満足度、社会や地球に関する価値観の重要性と実現度を問うアンケートも併せて実施した。本結果に基づき、本プログラムの効果として、地球や社会が人間を支え、人間も地球と社会に能動的に働きかけることで双方向性が生まれウェルビーイングが向上する可能性の検証を行った。
プログラム実践後に実施したアンケートでは9割の生徒がプログラムを通じて「達成感が得られた」、2割の生徒が何等かの「自信を得られた」と回答した。このことからプログラムの実践は短期的には自尊感情の向上に寄与したことが示唆される。加えて、4割の生徒は海洋ゴミ問題に対する関心が高まった、3割の生徒は海洋ゴミ問題に対してより積極的に取組みたいと意欲が高まったと回答した。海洋ゴミアート制作プログラムは参加者の自尊感情を高めるとともに、海洋ゴミ問題への関心を高め自分事として捉えるきっかけとなることが示唆される。
本研究で行った調査は量・回数ともに少なく、今後はプログラム参加者の変化を長期的に追跡・評価することが求められる。加えて事前・事後の学習とアート制作につながりをもたせたカリキュラム作りや、学校による体制の差異を考慮したプログラムの一般化、学校のリソースに依存しすぎず継続実施を可能とする仕組みについても検討する必要がある。
本研究は公益財団法人笹川平和財団からの委託業務の一環として実施した。2025年に大阪・関西万博が「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとして開催され、万博は四方を海に囲まれた会場で開催されること等から、「海の万博」として認知されている。海を通じた価値創出や地球規模課題の解決するテーマ・モデルを「海の万博」で発信することを目指し、そのひとつのテーマ候補として海洋教育に注目し研究を行った。