日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG21] 原子力と地球惑星科学

2023年5月25日(木) 09:00 〜 10:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)、濱田 崇臣((一財)電力中央研究所)、笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、座長:竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)

09:00 〜 09:15

[HCG21-01] 地球統計学的解析に基づく高塩濃度地下水の三次元分布推定とその結果に基づくボーリング調査地点の選定方法の検討

*佐藤 菜央美1、早野 明1、柏原 功治2、手島 稔3、根木 健之3 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、2.石油資源開発株式会社、3.日鉄鉱コンサルタント株式会社)

キーワード:地球統計学的解析、ボーリング調査、電磁探査、高塩濃度地下水、地層処分

はじめに
 高レベル放射性廃棄物の地層処分では、「地下水流動が緩慢であること」が好ましい地質環境特性の一つに挙げられている [1]。地下深部には、地層の堆積時に閉じ込められた海水に由来する高塩濃度の地下水が存在することがあり、このような地下水の存在は、長期にわたり地下水流動が緩慢であることの証左になる。したがって、その分布を調査・評価するための技術は、地層処分事業の概要調査において不可欠である。高塩濃度地下水の存在を判断する場合、地下水の塩化物イオン濃度(Cl-濃度)と酸素・水素同位体比(δ18O、δD)が指標となる。よって、これら水質の三次元分布を必要十分な精度で推定する技術が必要となる。
 地球統計学的手法は水質の実測値のない領域の推定が可能であり、その中でコロケーテッド・コクリギング(COK)は取得した調査データを合理的に活用できる手法の一つである。本研究の場合、COKは、ボーリング調査により得られる水質データが一次データとして、さらに物理探査により得られる地下の物理量の三次元分布データが二次データとして使用できる。一方、概要調査では、ボーリング孔掘削による環境擾乱やコスト削減などの観点からボーリング調査の地点数を最小限にできる工夫も必要である。そこで本研究では、北海道の幌延地域を事例にCOKにより水質の三次元分布を推定し、それに基づいてボーリング調査地点の選定方法について検討した。

方法
 検討には幌延地域で実施された計10孔(HDB-2を除くHDB-1~11)のボーリング調査で取得されたCl-濃度およびδ18O値と、電磁探査により得られた三次元比抵抗分布を用いた。地下水水質と比抵抗との間にはやや強い相関があり、三次元比抵抗分布がCOKの二次データとして適切であると判断した。まず、全10孔の水質データに基づきCOKを実施し、深度1000 mまでの水質データの三次元分布を推定した(フルモデル)。次に、1~3孔の水質データを用いて15ケースのサブセットを作成し、同様の手順により推定した。各サブセットに含めるボーリング孔は、三次元比抵抗分布と地質・地質構造モデルに基づき選定した。フルモデルと各サブセットの推定値の比較として二乗平均平方根誤差(RMSE)を計算し、サブセットから作成されたモデルについて、フルモデルの再現性を評価した。

結果
 15ケースのサブセットのうち、3ケースではRMSEが低く、フルモデルをよく再現する結果が得られた。良好な再現性が得られる場合の特徴を調べるため、これら3ケースのサブセットにおける水質データとその位置に対応する電磁探査の比抵抗との間の相関を調べた。HDB-1孔のみのサブセットでは、比抵抗が全体的に低く、水質データが低い値から高い値まで連続的に得られていた。HDB-3,5孔の2孔のサブセットでは、それぞれのボーリング孔の水質データの分布は偏っていたものの、2孔を合わせることで連続的な分布となっていた。HDB-3,5,7孔の3孔のサブセットでは、前述のサブセットと同程度のRMSEであり、HDB -7孔の追加は、再現性にほとんど影響しなかった。
 残りの12ケースでは、RMSEが比較的高くフルモデルの再現性は低かった。これらのサブセットは、水質データとその位置に対応する電磁探査の比抵抗の分布が不連続で偏っていた。

考察
 再現性の高いケースの特徴を調べるために、COKに使用されるパラメータである、平均値、相関係数、共分散をフルモデルのそれと比較した。その結果、フルモデルとサブセットそれぞれのデータの平均値の差の二乗とRMSEの間にやや強い正の相関がみられた。これより、本研究の場合、サブデータセットによるフルモデルの再現性には、重み関数を計算するパラメータである分散と共分散よりも、推定値の基準となる平均値が強く影響することが示唆された。
 幌延地域のように、主に高塩濃度の水と天水の混合により地下水が形成され、地質が比較的均質である場合、Cl-濃度、δ18O値と電磁探査の比抵抗が比較的良い相関を示す。そのような地域では、ボーリング調査の前段階に行われる電磁探査の比抵抗分布に基づき、不確実性が高い領域の比抵抗を網羅的に取得できる地点を選定することで、水質の三次元分布の推定精度が向上すると考えられる。

本研究は、経済産業省資源エネルギー庁委託事業(令和3年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業[JPJ007597]:岩盤中地下水流動評価技術高度化開発)の一環として実施したものである。

[1] 原子力発電環境整備機構,2021,NUMO-TR-20-03.